いわゆるフィールドワーク@農業法人

今日は午後から、都市近郊で農業をされている農家の方を訪問し、仕事についてお伺いしました。もちろん僕はおまけで、主導は公務員の友人です。彼は、休日に自腹で積極的にいわゆる「現場」を見て回る男で、今回はそれに便乗させてもらったということです。

訪問させていただいたのは、野菜や果物を、東京近郊で生産されている農業法人です。向かう電車の中で、友人に資料(官庁のHPにあるもの)を提供してもらい、国内の野菜生産や、野菜の生育過程について簡単に勉強。しかし霞が関の作成する資料のクオリティの高さは尋常ではない。発展的・先進的提言をする能力についてはともかく、現状や制度の説明能力については素晴らしいものがある。これは知的エリートの事務処理能力ゆえと言っていいでしょう。

駅到着後、バスに乗り、最寄のバス停から少し歩き、到着。思いっきり作業中で大変お忙しいにもかかわらず、作業の休憩時間や、作業しながら色々お話を聞かせてくれ、すごく勉強させていただきました。以下雑駁ですがまとめます。なお、内容は伺ったお話と、自分で考えて再構築したもの、そして、自分が勝手に考えたものが混在しています。

・農家には大きく分けて二種類。稲作農家は年一回か二回の収穫がメインで、一回の収入は大きいが、そのぶんリスクも大きい。また、繁忙期は大変。一方、畑作農家は、三毛作くらいをふつうにするので、ずっと忙しい。ニンジンはほとんど一年中作って出荷するし、それ以外だと、冬:大根、夏:西瓜・メロンといった具合でコンスタントに作業がある。うちの実家が稲作とブドウ、梨という前者だったので、農家は冬とか割と暇で、農業以外の作業をやっているイメージがあったが、畑作農家はそうではないらしい。

・農家でするのは、収穫、洗浄、選別、箱詰め。その上で、取引先が手配した運送会社が受け取りに来る。お伺いした農家では、洗浄は機械化。

・稲作とは異なり、野菜農家はそれぞれの作物で重さや形状が異なるものができる(たとえばニンジンなんて同じ形のものは一つたりともない)ので、出荷先は複数持ち、異なる需要にこたえるようにしている。たとえば、形が綺麗で大きさが中くらいのものはスーパーに、形は綺麗ではないものは惣菜店にといった具合。また、JAとそれ以外とでは、前者には事務手続(決済等)を全部やってくれるし、代金が翌日払いということもある。後者は、代金は二ヶ月先だったりする(前者のデメリットについてはおっしゃらなかったですが、代金は後者の方が高くなるということがあると思います)。そして、引き取り手がないようなものについては、切干大根等に加工して付加価値をつけて販売する。

・価格決定で市場原理が働いていない。消費者の買ってくれる値段に基づき、川下で値段が決定され、そこから諸費用を引いた価格が農家に提示される。そして、ふつう農家にそれを断る力はない。そこで、最近は、自ら直営所で販売するといったこともしている。とはいえ、業者の買い取る量とは圧倒的に差があるので限界がある。

・野菜は単価が安いので、米とは違ってネット販売に向かない。また、ネット販売をする場合、たとえば楽天等を利用すると手数料も馬鹿にならないし、自前でやると、特定商取引法等の関係から法律リスクがあるので厳しい。

・畑作においては、色々と工夫をしている。また、あたらしい農薬が開発されたら、それを試したりもする。そういった農薬は、国や県の農業試験場が開発している。というのも、開発に時間がかかるものについては、国しかその担い手がいない。いくら企業が農業に進出するとしても、そういったすぐに利益につながらないようなことはなかなかやらない。

・農業の担い手が育たない問題の根幹は、農家が儲からないこと。以前、連合が「サラリーマンの年労働時間2000時間以内」を掲げたのを聞いて、農家は一世帯四人で年収600万円、労働時間はその二倍ということから、実質的には農家で就労している者は潜在的失業状態だと思ったことがある。

・また、農地法等の縛りから、耕作地を他に譲渡できないし、担い手が減っているから、譲受人も出てこない。農業関係の制度は問題だらけだと思うが、法律はそれらの問題についての認識が一般化しないと変えられない。もちろん、それを率先してやる政治家がいれば別。

・次世代が育つためには、食っていけるということだけではなく、農業の魅力を育てることが必要。また、今は魅力を感じる人がいても、土地を借りるにあたってのバックアップなどの支援がいまいちできていない状態ではないだろうか*1。また、近郊農業であれば大消費地があるのでいいけれど、そうでないと生産はできてもなかなか売れない。また、農家をどうすべきかという国家戦略のみならず、次世代の農家の担い手たちに、農家がどうなるかというビジョンを提示しなければならないと思う。彼らをモチベートし、更に若い人を呼び込むような夢とでも言うべきものがなければならない。

・戸別補償については、いくら金もらっても、国の借金が増えて税金で取られるのではあまり意味がないと思う。

・TPPについては、特に感想はないようにお見受けしました。やはり、米農家と違ってブランド化がしやすく、新鮮さが売りとなる野菜を生産する農家では、TPPによる安い海外産農産品への恐怖心のようなものはないのかもしれません。また、戸別補償についても、この制度はTPPとの関連する*2ので、この点についても上で述べたとおりあまりご関心がないようにお見受けしました。

以上です。
しかし、お伺いしたこの会社、農作業終了後、夜には勉強会を開催し、作物や経営について社員で検討しているらしいです。こんな素晴らしい会社があるとは…たぶんここでインターンすれば、仕事できるようになるだろうなあ…
正確に伺ったわけではありませんが、社員を十名弱雇われているようです。
そして、何よりお話をお伺いした方のビジョンや考え方の深さに大変驚きました。いくら自分の業界だからと言っても、いきなり*3門外漢が来て色々アドリブで質問しているのに、きちんと答えられ、しかもこうあるべきだという問題意識・方向性を語れる人と言うのはそう多くないのではないかと思います。

ここに書いても意味はないのですが、本当に心から感謝しております。

そして、ここでも感じたのは、法律家の出番のなさです。お話を伺う過程で、自分の専門分野に基づく質問というのはほとんどできませんでした。もちろん、法律家と言うのは、こういった分野ではそんなに出番がないとか、紛争発生後がメインだとかいったことはあるでしょうが、それでもやはり何か自分の目指す方向と、今やっていることとの関連性に疑問をもってしまったことは否めないということです。我慢我慢忍耐忍耐の日は続くのでしょう。

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*1:なお、これについては県によって差があります

*2:民主党でぶれまくっていますが…

*3:もちろん事前にアポは取っています