震災孤児・遺児の現状と支援

訳あって、某所で表題について自分がまとめたのですが、こういった一覧みたいなのってネット上で見かけなかったので転載します。

先の震災で、東日本大震災の死者行方不明者は27,754人(4/20午後6時、警察庁まとめ)。
新聞によれば、30歳〜49歳の死者行方不明者は13.3%、約3,600人。その内80%が結婚し、子どもが1.3人とすると仮定すると推定約3,700人の震災孤児遺児がうまれてしまうことになります*1。社会的に生きて行く力が十分ではないとされる子供の支援というのが喫緊の課題であることは言うまでもなく、実際に下記のような支援が行われています。これで十分かとか、子供以外への支援とのバランス(有限な支援のための資源の配分の妥当性)については、自分の判断能力を超えるのでわかりませんが、実際にこういった支援制度があるのだというのを知っていただく、或いは利用していただければ幸いです。
以下、まず震災孤児・遺児の現状について述べ、続いて支援制度を国や地方公共団体によるものと、それ以外によるものを分けてその概要を説明します。また、前者後者ともにっ自分がウェブで調べたにすぎないものなので、落としがありえます。


1.震災孤児の現状
厚生労働省によると,7月11日時点で,東日本大震災で両親を失ったり,行方不明になったりしている子供(震災孤児)は,宮城県で112人,岩手県で88人,福島県で19人の合計219人に上っており,このうちほぼ全員が,祖父母や伯父叔母等の親族に受け入れられているという。しかし,そういった受け入れ世帯の3割強が,被災して職を失っているとされ,高齢の祖父母が受け入れている場合もあるため,子供の保護者への経済的支援が課題となっている。また,震災によって父親か母親のどちらかを失った子供(震災遺児)は,把握できている限りで,岩手県で382人,福島県で70人の合計452人となっており,厚生労働省は更なる実態把握を進めている。


2.国や地方公共団体による支援の概要
(1)国による支援
○児童福祉関係職員の派遣
児童福祉専門官,児童相談センター職員,児童福祉司,児童心理司等を派遣

○子供の心のケア
対象は子供に限らないが,「心のケアチーム」を派遣(7月12日時点で累計2709人)

○震災孤児・遺児に対する経済的支援
・年金(遺族基礎年金・遺族厚生年金)
年金加入者である親が死亡した場合に,その子に支給。前者は月額65,741円,後者は加入期間や報酬により異なる。

労災保険(遺族補償年金)
労働者である親が仕事中や通勤中に死亡した場合に,その子に支給。

児童扶養手当
父母が死亡または行方不明で,父母以外の者が子を養育する場合に,その養育者に対して支給される。月額41,550円。養育者に一定額以上の年収がある場合,支給停止。子または養育者が労災・年金受給,子が里親委託の場合は不支給。

子供手当
父母が死亡または行方不明で,子の養育者に対して支給される。月額13,000円。里親の場合,も同額を支給

親族里親
父母が死亡または行方不明等により子の養育が期待できない場合に,3親等以内の親族が子を養育するならば,一般生活費として月額47,680円のほか,教育費等が支給される。なお,厚労省は,震災孤児を養育する伯叔父母に対して,下記の里親手当を支給できるようにする方針を固めている。

養育里親
父母が死亡または行方不明等により子の養育が期待できない場合に,4親等以上の親族や親族以外が子を養育するならば,一般生活費として月額47,680円・教育費等のほか,更に里親手当が月額72,000円支給される。

○小括
震災孤児の多くが,伯叔父母や祖父母と生活している中,親族里親の申請の件数はわずか2件にとどまっているとの報道(5月15日)もあり,これらの制度が有効に利用されることが望ましい。


(2)地方公共団体等による支援
岩手県
・いわての学び希望基金
岩手県基金条例に基づき運営する基金で,震災孤児を支えるため,対象者が社会に出るまで必要な「くらし」と「まなび」に要する資金を給付する奨学金制度を整える。県が1億円を積み立て,更に6月10日時点で,個人の寄付が3500万円,企業・団体等による寄付が4億2600万円集まっている。ふるさと納税を利用した寄付も可能。なお,震災遺児をも給付の対象とすることも検討中。

・県高教組
保護者を亡くした県立学校(高校,特別支援学校)の児童生徒に10万円の特別奨学金を給付。

・その他県内の大学や私学
学費免除や奨学金創設等。

宮城県
東日本大震災みやぎこども育英募金
宮城県が運営。震災遺児・孤児のための支援基金を設立する方針を固めている。7月中に寄付口座を開設し,9月の県議会定例会へ設置条例案を提出することを目指す。主に教育資金に充てる方針で,毎月一定金額の支給や,進学前の一時金給付等を検討。また,寄付金の集まり具合によっては使途を拡大し,津波被害が大きかった沿岸部に,被災児童が利用できる教育施設を整備するといったことも検討。

福島県
義援金支給
福島県の配分委員会は,日本赤十字社や県へ寄せられた義援金につき,18歳未満の震災孤児に100万円,震災遺児に50万円を支給することを決定。

・相馬市震災孤児等支援金
福島県相馬市が条例を制定して設立。孤児等の学業や生活費用を支援するための寄付を募る。市内で親を亡くした子供44人に対し,18歳になるまで1人月3万円を支給する予定。



3.民間団体による支援の概要
以下、民間団体が行っている支援について、団体ごとに紹介する。現時点(7月14日)ではいまだ具体的内容が固まっていない団体もあるが、その一方で、震災直後から積極的に活動し、既に一時金を支給し、更には長期的な支援を継続する具体的な方法を示している団体も見受けられる。

NPO法人あしなが育英会
広く寄付を集め,病気,災害,自殺など自動車事故以外で保護者を亡くしたり,重度後遺障害で働けなくなったりした家庭の子供に対して奨学金を無利息貸与している団体。その金額は月当たり,高校生2.5ないし3万円,大学生4ないし5万円,専門学校生4万円,大学院生8万円である。これまで約8万人の遺児等が,同育英会の支援により進学している。

この度の震災においては,震災で保護者が死亡・行方不明または重度後遺障害の0歳児から大学院生までに特別一時金を支給。中学生以下に50万円,高校生・浪人生に80万円,大学・専門学校・大学院生に100万円支給。この特別一時金支給のために集まった寄付は,既に3万4千件17億円にまでなっており、既に遺児1584人が一時金を受給した(7月8日時点)。また,従来行っている貸与制の奨学金の審査手続きを簡素化した。

経済的支援以外では,子供たちのケアにも取り組んでおり,既に津波遺児に対するケアプログラムや、子供たちの心のケアに当たるボランティアを養成するための講座と講演会を行っている。また,子供たちの心のケアを行うための大規模施設を仙台に建設することを決定。阪神・淡路大震災後,神戸に建設し,16年間子供を支援してきた施設と同様のものを建設。同施設の建設目的には,遺児の心のケアを日常的長期的に行うこと,心のケアを実際に進める大人をファシリテーターと呼ぶが,そのように子供に寄り添え,心のケアを必要とする子供の心を大切にするファシリテーターを東北で育成すること,安価な大学生の学生寮を併設し,津波遺児の仙台での大学進学の拠点とするとともに,幼い津波遺児にとって優しいお兄さんお姉さんや,目標になるような人との出会いを提供することがある。


・IPPO IPPO NIPPON
公益社団法人である経済同友会による,中長期視点での震災復興支援を目的とするプロジェクト。被災三県の経済同友会幹部や有識者による運営委員会を立ち上げて,5年間にわたって企業及び個人から寄付を募り,人づくりや経済活性化を主たる目的として,被災で保護者を亡くされた子供たちへの支援のほか,地場産業の将来を担う若者を育成する職業高校,研究開発を担う大学などから,真に支援を必要としているところを寄付先として選定する予定。運営経費は経済同友会が負担し,全ての寄付を被災地域に届ける。7月14日時点で13社が参加を表明しており,賛同する著名人やスポーツ選手がサポーターとして参加。半年を1期とし,期の初めに具体的な寄付先とその割合を決定して,寄付を募る。本年は,9月1日より寄付を募集する。

・桃・柿育英会 東日本大震災遺児育英資金
桃・柿育英会は,震災遺児の学資を援助するために1995年に発起された任意団体。本震災を受けて,東日本大震災遺児育英資金を立ち上げた。年1万円を10年間寄付してくれる人を1万人募り,計10億円を集めることを目標。岩手,宮城,福島3県の遺児らへ小学校から高校卒業まで毎月一定額を給付。阪神大震災では,4億9千万円を集め,県教育委を通して419人の遺児に給付している。発起人には,安藤忠雄氏(実行委員長)や,小柴昌俊氏,柳井正氏ら。

・財団法人全国里親会
震災孤児に対し,6月下旬から一時金として7万円を手渡しで支給する方針。孤児を引き取っているほとんどの親類が里親登録をしていないことから,支援金を渡す際に里親制度の周知も行う。また,各地の里親会を通じて受け入れ可能な里親の数を調査したところ,1671家庭で計2700人超を受け入れられるという。

・ハタチ基金
公益財団法人日本財団などが立ち上げた,被災孤児,及び被災地の子供の心のケア・教科学習・キャリア学習や,生活・就学のための経済的支援,被災の影響で就業が難しい若年層の自立支援などを目的とする基金。設置期間は20年間とし,震災の時に生まれた子供が高校生になり,成人式を迎えられるまで支援する。支援対象は,20歳までの子供・学生を中心に検討。具体的な活動としては,現在,18〜20歳の震災遺児を対象にした自立援助ホームを作るための調査を進めている。

東日本大震災ともしび会
福島市で幼稚園から短大までを運営する学校法人コングレガシオン・ド・ノートルダムが設立した,孤児を育てる里親を募り,支援する団体。里親に月額8万円を支給し,大学・短大を卒業するまで最長で20年間支援。国の制度とは別に当面10人の受け入れを目指す。同法人はカトリック系の修道会が設立母体であるため,孤児側が希望すれば,修道院で受け入れ,シスターが育てることもあるという。

・毎日希望奨学金
毎日新聞社毎日新聞東京・大阪・西部社会事業団が設立。東日本大震災で保護者を亡くした震災遺児を応援する寄付を受け付け。

・未成年者生保支援ネットワーク
生命保険協会が,震災孤児に保険金を適切に支払うため設立。被災三県の弁護士会自治体と連携し,情報共有や相談先の紹介を行う。未成年が生命保険金を受け取る場合,後見人を選ぶ必要があり,生保と弁護士会自治体の連携が必要となる。従来は現場レベルで対応していたが,ネットワークを作ることで,より確実な支払いを目指す。

・ワンコイン・サポーターズ
愛知ボランティアセンター(団体法形式不明)が企画。同団体の構成員は,阪神大震災時に,愛知県内の高校生によって結成された震災孤児・遺児に奨学金を送る団体の卒業生や顧問が中心で,中高生のボランティア派遣や,市町村への寄付を行っている。同企画は,毎月11日に1口500円を寄付するよう呼び掛けるもので,集まった寄付金は,全ての震災孤児・遺児が高校を卒業する19年後まで給付を続ける。阪神大震災では,合計545人に,3000万円余りを給付している。



4.小括
  以上の震災孤児・遺児の現状や支援団体の活動を踏まえて現状を分析すると、以下のようなことが見られる。
・震災孤児については里親を利用することによって得られる経済的支援がかなり大きい
地方公共団体による経済的支援も、福島県以外の二県では整備されつつある
・国や地方公共団体による支援はその性質上、金銭的給付が中心となる
・民間団体による支援では、一時金給付や継続的給付・貸与、更にはそれ以外の物的心的両面におけるケアを行うものなどかなり多様である
・特に親族里親の申請がなされておらず、これらの制度の周知が必要
これらからすると、震災孤児については、里親による受け入れを前提に、里親・孤児への支援をするということになり、震災遺児については、親・遺児への支援をするということになると思われる。なお、福島県では、孤児の数が少ないことや、津波被害の大きかった相馬市で既に基金が作られていること等が理由とも思われるが、県による基金が今のところ創設されていない。しかしながら、遺児・孤児でなくとも、原発事故により心的ケアや経済的支援が必要となる子供がいることも考慮する必要があると思われる。
現在必要と思われる孤児・遺児支援については、まず、これら多種の支援制度の交通整理及び周知が求められていると思われる。また、金銭的給付が必要であることは言うまでもないが、それにとどまらず、地域ごとに、孤児や遺児が物的心的困難に直面した際に、第三者として支援をすることができる体制の整備が、不足しているように考えられる。むしろ、金銭的給付よりも、孤児や遺児が社会的に孤立してしまわないように、県レベルよりも更に細かく、市町村ごと或いは地域ごとに、孤児や遺児からのアクションを待って相談に乗るのみならず、見守って何かあれば適宜アドバイスができるような環境が整備されることが望ましいように思われる。



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*1:愛知ボランティアセンターより:http://aichiborasen.org/onecoin