自分がやった司法試験対策のまとめ

とりあえず、成績が返ってくる前に書いた方がいいかなと思ったので、これから自分がやっていた勉強と、使った教材、できれば本番で何を書いたかあたり(これは別記事にて。)を記していこうと思います。また、成績が返ってきたらたぶんそれも載せます。

最初に、自分は今まで中学高校の模試からはじまり、東大入試やロー入試といった試験をいくつも受けてきましたが、ここまで準備不足な状態で受けた試験は初めてでした。また、試験中に落ちたかもしれないと思って茫然とし、手が止まってしまってしばらくぼーっとしたのも生まれて初めてでした。そんな人間が書いたものとして以下お読みください。

結果発表後はなんとでも言えると言われればそれまでですが、普段は勉強内容や時間を晒すといったことに躊躇がない自分でも、今回については時間を晒す勇気がありません、というか、この記事も書いた後公開するかどうかかなり躊躇しました。つまり、晒すのが恥ずかしいくらい勉強ができていなかったということです。現実に、試験を受けた直後は、択一パスすれば行けるかもしれないが、どう考えても択一で落ちたといったような感想だったところ、択一は、民訴の後半で、肢を二つまで絞った問題が七問連続で正解するとか、民法が普段の出来からすると異常に出来ていたといった奇跡的なことがあって何とかパスした感があります*1。そして、勉強量は論文よりむしろ択一に如実に表れるものですから、本来なら落ちていた勉強量だったのでしょう。そういった意味で、本当に今回は幸運、或いは薄氷としか言いようがない結果でした。

さて、受験勉強の内容ですが、当たり前のことを当たり前にやったというだけでした。つまり、全ての受験科目において、過去問を回して傾向を掴み、基本書や教科書を回して理解を確認し、それと並行して百選で重要判例の概要を頭に入れる、というだけです。

択一対策については、肢別は嫌い*2なのでやらず、過去問を確か12月くらいに三年分解いてみたところ得点がボーダーくらいだったので、3月くらいに集中的にやろうと思っていました。

論文の過去問回しは、確か三年夏の試験が終わった九月末くらいから、気の合う仲間二人と計三人で行いました。そこでは、細かい論点はつっこまず、問題が何を問うていて、どのあたりを拾わなければならないかといったことや、論証の順序や日本語としておかしくないかといったことだけを確認していました。

東大ローは三年冬学期にもそれなりに授業があるので、基本書や教科書+判例集回しに全力で取り組みだしたのは確か年明けて1月末からで、そこから311までは、仲のいい友人後輩三人と、朝10時に集合して一緒に空き教室で勉強するといったことをしていましたので、1科目10日ペースくらいと本当に効率よく勉強できていました。そこで刑訴、会社、刑法、労働法はしっかり回したはずです。また、それより前の年末年始で民法の条文判例本は回したように記憶しています。しかし、地震を受けて帰省し、それ以降勉強の能率は体感、それまでの四分の一程度になってしまいました。それ以降の一か月で進められたのは確か、民訴と、行政法を若干だったでしょうか。その時点で気付いたら試験の二週間前でした。仕方ないのでそこからは、判例六法をずっと眺めていました。

そういったことで、結局、択一の過去問は三年分くらいしか解いておらず、模試は一度も受けず*3、試験前二カ月一度も論文を書かずに試験本番に突っ込むという、本当にあり得ないことになってしまいました。もちろん、地震がなければちゃんと回る計画ではあったのですが、こればっかりは仕方ないので、とりあえずそれまでの知識をフル活用して本番の試験に全力で取り組んだ、ただそれだけでした。

次に、上の回す過程で参照した教材を以下箇条書きします。
当たり前ですが、回す過程に入る以前(ロースクール在学中や、ロー入試対策)にはこれ以外に色んな教科書や問題集を使っています。また、判例六法については、ほぼ全科目につき目を通しています*4

憲法:上記のとおり勉強する時間取れず。
行政法:条文判例本(辰巳。以下同じ)、百選。
民法:条文判例本、百選、適宜基本書(佐久間、中田、道垣内)。
商法:リークエ会社法(神本)を二度通読。百選は古いので使わず。
民事訴訟法:民事訴訟法の基礎(岡)、百選。岡先生の本は悪くはなかったが、これだけでは司法試験には足りないと試験会場で実感した。
刑法:リークエ刑法。適宜基本書(山口)。
刑事訴訟法:条文判例本、百選。
労働法:基本書(荒木)通読、百選。

以上です。
なお、今回の受験勉強では、予備校を使わない自分が珍しく条文判例本を使っています。もちろん、予備校教材らしくあてにならないところがかなりある*5ので、適宜基本書や百選で補いつつ読んでいました。それでも自分でノートを作る暇は自分には全くなかったですし、どの部分を回したかどうかがわかりやすいという意味での一覧性があって便利なので、結局愛用していました。ただ、使っていない科目があるのは、その科目の性格上条文素読コスパがよくないといった理由からです。たとえば会社法なんかは、リークエ読めば割と何とかなりますし、刑法は予備校駄目絶対だと思い使いませんでした。買ってはいましたが。

そして、こんな状態でかろうじて合格したのはなぜかということを最後に分析しておこうと思います。

上の過去問検討の勉強会参加者自分含めて三人は幸い、今回全員合格していたのですが、その二人と話して結論されたのが、「結局論文は、①試験問題を見て何が問われているのかを見抜き、②自分の頭の中の知識を③適宜利用してうまく答えを作る作業」であり、「差が付くのは何が問われているのかを見抜く力だ」でした。過去問を検討していて、①と③の力については三人ともたいして差はなく、差があるのは「②自分の頭の中の知識(=既存の判例や学説の理解)」だけだったように感じるという点においても三人とも一致しました。なお、三人ともローの成績はばらばら*6で、そう言う意味で成績はあてにならないのかもしれません。

では、これらはどうやったら鍛えられるのかということを少しだけ考えてみます。
①については、過去問を回すにあたり、まずは自分で何が問われているのかを考え、それが出題趣旨や採点雑感、高順位合格者の答案等に照らしてずれていないかといったことを地道に確認するしかないのではないかと思います。また、出題は何だかんだ言いながらも既存の判例や論点を下敷きにすることも多いので、判例や論点の本質*7をしっかりと理解することも有効なのかもしれません。
②については、教科書なり判例集なりを読んで頭に入れるだけのことです。
③は、「当該設問で要するに何が問われており、その答えとしては最低限どういうことを書くことが必要か」を見抜かないと、必要とされる判例や学説の理論を頭の中から引っ張り出せず無駄なことを書いてしまいますから、普段から教科書を読む際に淡々と読むのではなく、結局当該議論で重要なことは手短に言うと何なのかとか、判例を読む際には当該判例において前例とされている部分の議論の本質は何なのかといったことを考えながら読むとかいったトレーニングをするしかないのでしょう。この点については、判例や学説を勉強するに当たり、要件を丸暗記しようとする人もいるようですが、これは近道のようですが、本質を理解しないと本番での融通が効かないので必ずしも効率がいいとは言えないように思います。また、①や③については、これは感想にすぎませんが、ある程度素質と言うか勘の良さのようなもので個人差が生まれる部分もあるように思います。ですから、その辺りが苦手と思っている方*8は、普段から意識してトレーニングするなり、択一でなるべく高得点を取るようにするなりといったことを心がけるのがよいでしょう。

そして、自分の場合、法律をまともに勉強し始めて以来、要件の丸暗記と言う作業はせず、というより、性格上、理解しないのに覚えるなんて作業はできなかったので、自分の頭でこってり考える・自分なりの理解を掴むまでとことんやる、ということばかりやっていました。また、教科書を読んでふーんと思って終わるのではなく、ネット上で実務がどうなっているか調べたり、ローの履修はなるべく実務を知ることができるような選択をして、理論→実務・実務→理論といった具合に演繹帰納を繰り返していました*9。それ以外では、いままで見たことがないような英語の条文を見て、先生の発される質問に、その場で考えて答えるといった演習を履修していたのも有効だったのかもしれません。
結局、あまり意識はしませんでしたが、それらによって①や③が相対的にできるようになっていたので、何とか合格することができたのではないかと思います。

とりあえず、だらだら書いてきましたが、改めて書くことがなさすぎてちょっと驚いているところです。結局、ロー入試以来やっていたのと同じことをやっただけで、それ以外に特に何か特別なことをやったということはありません。そういうものなのでしょう。下に、三年前に書いた文章を引用しますが、今とあまり差がありませんので。

法学の勉強の流れとしては、自分は基礎になる体系を理解した上で、それに枝葉となるような知識をつけていくようなイメージでやっていました。細かい知識を覚えることは後回しにし、超基礎的なところを固め、その上で一つ一つのシステムの設定を見ていくというか。(中略)

あと、もう一つには、知識の暗記というスタンスではなく、自分の思考方法に法学のロジックを入れていくというスタンスを取っていました。つまり、自然に問題へ取り組めるというか…説明しづらいんですけど。最初は自分自身が法学に染まってしまうので抵抗があったのですが、それは専門家になるためだから仕方がないとあきらめましたw

具体的な試験対策の勉強としては、①教科書や授業でおおよその体系や知識をつける(できればノートも作る)②基本書や判例集で細部(学説の対立や制度の詳細、判例の展開)をつかむ③問題で演習するという流れでやってました。自分の場合、真面目に勉強を始めたといえるのは、四年の六月くらいからで、大学の授業にまったく出ていなかったため、①の段階でめちゃ大変だったのですが、ちゃんと授業に出ていれば、①の段階は大丈夫だと思います。②と③は並行してやっていいと思います。

また、③については、慣れる為にも具体的に答案を各作業というのはある程度こなした方がいいでしょう。表現や順序などに慣れるだけで書くスピードが1.5倍くらいになります(去年と今年の答案で書いた量の比較ですけど)。慣れたら荒い構成で済ませてもいいかもしれません。また、問題としては、ロースクールの私大過去問か、旧司法試験の過去問がいいかと思います。自分の印象としては、難易度は明治中央<上智北大慶応京都<旧司法試験・東大っていったところです。明治中央は基本的な論点を問う問題が多く、上智は若干マニアックなことも問うといったところ。そして、北大京都は悩ませる問題、慶応は上智と北大京都の間といったところでしょうか。次に、旧司法試験は憲民刑がやたらめったら難しいです。商訴訟は割とやさしめ。ただし民訴の第一問は悩みます。最後に東大ローはなんともいえないといったところでしょうか…一見簡単と言われていても、学生側が出題者側の意図に全然気づけていない場合が多いのでなんともいえません。

*1:択一の点数はボーダーより20点上くらいだったかと思いますので、こういったことがなければボーダーより下だった可能性が高いです

*2:というより、本番と違う形式で解く意味をあまり理解できなかったというのが本当かもしれません。

*3:これは予備校嫌いと現実問題金がないという理由もあってのことですが…

*4:ただ、これ自体はあまり効率のいい方法とは思えませんが…

*5:特に、判例の要旨とかかなり恐ろしいレベルで本筋を外していたりしますし、学説のまとめは読んでも意味がわからない個所があります

*6:いわゆるブロックで言うと、全員違うブロックにいました。

*7:以下、やたら本質とか本質的という表現を多用していますが、これはいわゆる論証パターンみたいなものが書けるというにとどまらず、その論点がなぜ問題になるのかとか、実際にどういう例で問題になったかとか、どういった点を巡って学説や判例間で相違点が生まれ、それはどのような違いを帰結するのかといったことを理解していることくらいの趣旨です。

*8:特に、東大ロー入試で高得点が取れなかったような方

*9:個人的には、教科書を何度も読むよりも、数度で済ませて、あとは新聞でも読んで実際に問題になっている社会的具体例に触れる方がよほど勉強になると思っています。