修習にて思うこと(1)−特に弁護士の就職活動事情について

人生に一度しかないはずの修習なので、日記と言うか雑感をまとめようまとめようと思っていたら、それなりに忙しすぎてまったくそんな時間がなく、気付いたら三ヶ月あまりが経過していたという状態なので、この週末は珍しく家にこもって溜まっていた作業をしていました。

さて、(1)と付けたからには連載予定ですが、今日は法曹三者の就職活動事情について書きます。

まず、私の修習地大津は、修習生が20人程度で比較的小規模です。
そして、今後の連載については、現在私は検察修習を終え裁判所で修習中、その後弁護修習に入るという身分であることを踏まえて読んでいただければと思います。というのは、修習先によって見解や価値観も異なりうることから、法曹三者の全てを見る前と後では、私の考え方に違いがある可能性があるからです。すなわち、ここに書かれているのは私の暫定的な感想だということです。

また、就職活動事情についても、私の見聞きした範囲の話である、つまり大概は滋賀かせいぜい大阪京都の話だと言うことです。
さらに、守秘義務の関係、いや厳密にいえばそれによる委縮効果で言えないこともかなりあるということもここで付言しておきます。


1.裁判官と検察官
まず、裁判官と検察官ですが、これらについてはもっとも委縮効果が働くところではあるものの(笑)、多少書いてみます。

とりあえず、採用において見られる要素は、成績と修習態度(修習中の能力態度成績の全て)のようです。

成績というのは、司法試験の成績と修習開始後の起案*1がその主です。
修習態度というのは、両者とも実務家ですので、実務的能力を見ようというものでしょう。ここでいう実務的能力とは、法的知識を有していることを前提に、それらをその場に応じて適宜使いこなす能力です。検察でも裁判所でも、書面を作ったり、取調べをしたりということがありますが、それらをこなす修習生を見れば、経験豊かな裁判官や検察官には、実務的能力はすぐにわかるのだと思われます。

そして、これはそんな気がする、という程度の話ですが、裁判所のほうが検察に比べて成績を重く見ているような気がします。

じゃあその後どうやって採用されるんだよ、という話ですが、これは弁護士志望の私にはわからないので、修習に入ったら、裁判官や検察官と仲良くなって聞いてみましょう。


2.弁護士
ア 概要―時期と方法
まず、弁護士の就職については、時期と方法がわかれます。
時期としては、採用時期が修習開始前と修習開始後のものがあり、方法としては、ふつうの企業の就活のようにウェブなどを通じて申込むものと、おそらく伝統的な形である口コミ的な採用とがあります。修習開始前に採用をするのは、たいてい弁護士数30人以上の大規模事務所であり、ウェブ方式が通常です。また、修習開始後に採用をするのは、それ以外の、いわゆる街弁と言われることが多いような事務所です。また、大規模事務所はローや司法試験の成績を重視して採用をし、それ以外の事務所は成績に対するウェイトは軽めとされます。

ということで、時期と方法についてまとめると以下のようになります。
(ア) 修習開始前:大規模事務所&ウェブ方式。サマークラークで勝負が決まっているところもある。採用の考慮要素としては成績がメインか。
(イ) 修習開始後:大規模事務所以外&ウェブ・口コミ双方。採用の考慮要素としては成績のウェイトは低い。

なお、採用情報を得る上で就活生がお世話になっているのは、アットリーガル*2、ジュリナビ*3、ひまわり求人求職ナビ*4あたりですが、それ以外にも、これらに登録はしないが求人を自前のHPで出している事務所もありますので、興味を持っている事務所については、定期的にHPをチェックすることが欠かせません。


イ (ア)について
まず、(ア)については、前に書いた長くて読む気にならないと評判の記事*5をどうぞ。


ウ (イ)について―潜在的需要に食い込むべし
次に、(イ)についてですが、大規模事務所の採用数というのは、63期で修習生の2割弱ですから、それ以外の事務所が採用を行うこの時期が就活生にとっては主戦場となります。そして、ウェブでの就活と違って、苦手な人にとってはとことん苦しむであろうと思われるのがこの就活です。

というのは、ウェブを使った就活では、たとえばひまわり求人で出たものに手当たり次第書類を送りつけ、面接に呼ばれたら全部行くというしらみつぶし戦法が使えます。しかしながら、ここからは私の感想ですけれども、「求人は出していないが、いい修習生がいれば取りたい」という潜在的な需要をお持ちの街弁の先生と言うのは、実は結構いらっしゃるように思います。
考えてみたら当たり前で、今のご時世では、求人を出すと、しらみつぶし戦法の標的となり、大量の履歴書が送られてきます。そして、そのような履歴書を読む作業*6をする余裕は、小規模な事務所ではふつうありません。そうすると、どうしても人手がほしいということでなければ、修習生で活きのいいのがいれば取るか、くらいのスタンスでいるほうがいい、ということになります。

そうすると、就活生としては、求人が出ている事務所以外にもアプローチをかけていく必要がありますが、これはできない人にはできないようです。

なぜなら、このアプローチは、具体的には、

修習地の弁護士の先生と仲良くなる→採用余力や潜在的需要のある事務所を教えてもらう→そこの先生と仲良くなって採用してもらえるよう努力する


という過程を経ることになりますが、当然のことながら、弁護士の先生もお忙しいので、こちらに積極的にアプローチしてくれたり、採用の話を振ってくれるわけではありませんので、こちらからガンガン先生に近寄っていく必要があります。しかし、こういったことをできる人というのはそう多くありません。

たとえば、弁護士会の委員会を傍聴すると言うのは、弁護士の先生と仲良くなる最大のチャンスですが、それをしている修習生は意外にも多くありません。或いは、フェイスブックをされている弁護士の先生が多い中、フェイスブックを始めて接点を作ろうとする修習生も必ずしも多くはありません。たとえば委員会に行って名刺を頂き、あとで御礼のメールを送ってその際に事務所訪問をお願いするといったことをすれば、仮にその事務所に採用余力がなくても、他の事務所を紹介してもらうことだってありえますし、それがなくとも弁護士業務について話を伺い、勉強になるでしょう。確かにそこまで厚かましくしていいのかなと思うところはふつうあるでしょうが、弁護士の先生方はたいてい修習生に寛大でいらっしゃいますし、失礼がないようにすればいいだけのことです。そもそも、修習中に就職できなければ、修習修了後はただの多重債務者になりかねない我々としては、そんなことを細かく気にしている場合ではないでしょう。

そして、上のような潜在的需要を獲りに行かないとなると、上のような高倍率の求人で戦うか、弁護修習先の先生に採ってもらうかというくらいしか選択肢がなくなり、就活は相当シビアになるでしょう。


エ 弁護士の就活についてのまとめ
ということで、是が非でも弁護士として就職したい*7のであれば、修習開始前後を問わず、ウェブ上で情報収集、応募をし、修習開始後は、弁護士会の委員会傍聴や、弁護士のイベントにお邪魔するなどし、積極的に弁護士の先生と交流すべきでしょう。
そして、以上のことからすると、修習地を希望する際は、自分が(少なくとも最初の数年は)働いても良いかなと思える修習地を選ぶのが一番だと言うことになります。

さて、最後に言い訳を付しておきますが、上のようなことを書くと、凄く実利的なことばかりを考えて交流しているような印象を持たれるかもしれません。しかし、我々ペーペーにとっては、弁護士の先生にお話を伺うのは大変勉強になる上、今でないと話していただけないお話というのも結構ありますから、採用云々に関わらず、弁護士の先生とは交流すべきであろうと思います。また、即独というのがなかなか大変である以上、我々としては、一緒に働きたいと思えるような先生を見つける努力をしなければならないのは当然であるわけで、そのためには上のようなことをするのが近道だろうということです。


3.最後に余計なひと言
現在、法曹業界を問わず、世間一般的に新卒の就職事情というのはシビアです。大学卒業予定者の内定率は7割とちょっとですし、国家公務員採用7割減なんてクレイジーなことを言い出す人もいます。実際、私の周りの同期後輩で、企業の就職活動をしていた人たちと言うのは、かなりの努力をして内定を得ていました。確かに従来の法曹界というのは、司法試験合格者が少なかったことなどもあって、世間的な就活ほどの努力をせずとも就職が決まっていたのかもしれません。しかしながら、ここまで合格者が増え、多くの事務所で採用余力がないという状況では、受身的なスタンスで就活をしていたのでは内定はおぼつかないでしょう。それこそ企業の就活同様、今後は積極的に自分を売り込むことが求められでしょう。これは某先生に伺った話ですが、「弁護士事務所が採用したい人というのはたいてい一致する。積極的に弁護士と交流しようとする修習生は既に内定を持っていることがほとんど」とのこと。逆に言うと、就活で苦しむというのは、内定を取れる人が持っている何かを持っていないということなのかもしれません。したがって、それが何なのかを考えた上で改めて就活に臨めば、内定を取ることができるのではないかと思います。
なお、この記事が相当上から目線であることは自覚していますが、上のようなことに気づかないまま修習を終えてしまう人、或いは今年の司法試験後就職活動をする人にとって少しでも有意な情報を提供できればと思って書いたということを御理解いただければ幸いです。

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*1:文書を作成することまたは作成された文書自体のこと。ここで言う起案とは、検察なら起訴不起訴にした理由について、裁判官なら判決文や事実認定、要件事実に関わるもの

*2:http://www.atlegal.jp/

*3:https://www.jurinavi.com/index.php

*4:https://www.bengoshikai.jp/kyujin/link.php

*5:http://d.hatena.ne.jp/he_knows_my_name/20110807/1312696098

*6:余談ですが、履歴書の体裁や文章がいい加減だったり失礼だったりで、この作業はかなり苦痛なようです。

*7:私はこれがあるべき姿だと言うつもりはまったくなく、自分の行きたい事務所に行くのが一番だと思っています。しかしながら、行きたい事務所と相思相愛になれる可能性と言うのは必ずしも高くない以上、ある程度は「是が非でも」という思いを持ってやるのが妥当であろうと考えます