尖閣諸島に関わる問題について―中国のコラムから

尖閣諸島をめぐる問題については、日本で多く報道されていますが、それと同様中国でも百度ではトップで特集が組まれています。中国側ではどういう意見があるのかなと思って見ていたのですが、衝撃的な記事を見つけたのでそれについて書きます。


以下のリンクが当該記事ですが、この中国人ライターが書いた論評記事、いろんな示唆に富んでいます。
当該記事→http://forex.stockstar.com/FB2012081700005840.shtml
コピペができないので、本文の引用はしませんが、私のつたない中国語読解能力で当該記事の内容をまとめると、以下のような内容です。


<記事要約>
・米国は尖閣に関わる領土問題について中立の立場に立つと言っているが信用できない。中立の顔をして中国の利益を損なわせようとしている。彼らは一貫して日中両国の平和的解決を言うが、米国は日本(※東京都のこと)が島を購入する計画については触れない。
・領土問題は交渉では解決できない。時間が過ぎるにつれて、お互いに怨念が蓄積されるからだ。武力をもって解決するほかない。米国はそれを理解した上で、上のように平和的解決を言っているのである。そのようなアメリカを信用することができるだろうか。
・歴史的に見れば、日本民族は善良ではなく、大陸に対する野心を常に持っている。我々は、自国の領土を守るためには一戦も辞さないという覚悟を示さねばならない。日本は第二次大戦の原因を作った国の一つであり、東南アジアや中国で犯した罪についていまだに認めることなく、靖国神社A級戦犯を祀っており、軍国主義的思想はいまだに残っている。中国は第二次大戦の反省を忘れてはならず、日本が再び軍国主義の道を歩みだすことは絶対に阻止しなければならない。現在世界秩序を乱すことをのは日米両国である。日本は侵略の口実を探し、米国は利益獲得の口実を探している。
尖閣を取り戻すまでは、我々の抗日戦争は完遂されたとは言えない。領土問題はあいまいなままにしてはならない。曖昧にするのは侵略を助長する。
・今中国に足りないのは積極的に主張をすると言う姿勢であり、我々はいまや沖縄の主権の問題も提起すべきである。日米ばかりに主張をさせ、中国が主張をしないと言うのではだめだ。
尖閣問題の首謀者は米国なのだ。米国は、中立の顔をしつつ、中国を包囲させながらも中国を打つことはしない。そして、周辺国に問題が起きたかのように装わせる。尖閣問題では中立の顔をしつつ、実際は日本に偏っているのだ。このような米国の姿勢を打破するには、中国は軍事行動を含む主体的行動をもって臨まなければならない。そうすれば、米国も、そのような行動を止めるであろう。すなわち、尖閣問題を解決する可能性は、中国が米国に軍事力で追いつくことで初めて生まれる。


その他、穏健派の私でも頭にくるような記述があったのですが、その翻訳はしないでおきます。
また、私の中国語力の問題かもしれませんが、記事の中で話がちょくちょく飛ぶので、上のようなばらばらな要約になっています。


さて、これらの記事から読み取ることができることとして、虚言癖のある私が思ったことをつらつら書いていきます。


・筆者の米国の立場に対する理解は「中立のふりをしている」であって、「日本の味方のふりをしているが中立である」ではない
筆者は、「米国は中立のふりをしている」と述べています。そこで引用されているのは国務省の立場なので、おそらく以下の記事に書かれていることでしょう。どっちかというと形式的にも実質的にも米国は日本の味方だと何となく思っている日本人が多いようですけれども、少なくとも事実としては以下のとおりです*1し、中国人の筆者は、米国の立場は、形式的には中立だが実質的には日本の味方をしていてけしからんと、日本人とは逆に解釈しているということです。

「挑発行為」自制求める=米報道官
【ワシントン時事】米国務省のヌーランド報道官は15日の記者会見で、沖縄県警が尖閣諸島に上陸した香港の活動家らを逮捕した事件について「日中両国が平和的手段によって問題の解決を図るよう期待する。いかなる挑発行為も問題解決に資さない」と強調し、日中双方に自制を促した。
 同報道官はこの中で、「米国はどちらの主張も支持しない」と改めて強調。また、香港の活動家の尖閣諸島上陸が「挑発行為」かどうかについては「これらの圧力や強引な行動は、双方が着席して解決を見いだすための環境づくりに有用ではない」と指摘した。(2012/08/16-08:25)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2012081600091


・筆者は尖閣諸島の問題の黒幕は米国だと思っている
黒幕の内容は上に書いた通りで、中国と周辺諸国の領土問題をネタに、中国包囲網を築いているという主張です。日本の領土問題で誰が得をしているのかということを考えるについて、示唆に富んでいる主張かもしれません。


・筆者の日本・日本人に対する認識
一見、ふつうの日本人の自己認識とは大幅にずれていると思われることが書かれていて、荒唐無稽とも思えます。
しかし、筆者含めた中国人の目から見れば、敗戦の日靖国に一般市民が大挙して押し寄せる国というのは、靖国参拝に対する日中間での理解の差とも相まって、日本はいまだに軍国主義なのではないかと思うのはありうる話です*2。ですから、日本について、上のような認識を有する中国人がいても何ら不思議ではありません。


・筆者は蠟小平の棚上げ論に真っ向から反対意見を述べている
これまでの日中間の外交関係では、領土問題棚上げ論が前提となっていて、それは実効支配をしている日本にとって有利な主張であったと思われます。しかし、筆者は、「主体的な主張」をすべきだとして、積極的に領有権を主張していくよう述べており、これは紛争の激化をもたらすものですし、外交路線の完全なる変更を求めるものといえるでしょう。


・筆者の主張は、ナショナリズムを刺激するのみならず、島を神格化する内容を含んでいる
領土問題で一番厄介なのは、国民のナショナリズムが刺激されてしまうことと、歴史認識問題*3になってしまうことです。現時点でもナショナリズムは日中両国において刺激されている感はありますが、「尖閣を取り戻すまでは抗日戦争は終わっていない」という主張は、ナショナリズムを高揚させるのみならず、抗日戦争の対象である日本による侵略戦争の範囲を拡張し、尖閣諸島の象徴化・神格化を推し進めます。とりわけ、中国では抗日戦争自体が共産党の正統化根拠とされており、抗日戦争自体が神話化されていますから、それと領土問題が絡められるとなると、尖閣諸島が中国領であるということが神話となってしまう可能性は高いと言わざるを得ません。神話というものは理由もなく信じる対象ですから、いったん神話化すると、それと相いれない日本の主張を受け入れる可能性は著しく低くなるでしょう。実際、日韓領土紛争の対象である竹島は、韓国では神話化されており、それが竹島問題の解決を困難ならしめているところがあります。竹島は、日本の侵略戦争の象徴のように言われることがありますが、筆者の上の主張もそれと共通しているように思います。


・筆者は軍事力の行使も辞さない姿勢を見せている
一戦も辞さないという姿勢が表れており、武力紛争に発展することも念頭に置いていることがわかります。


・筆者は、東京都が島の所有権を取得することは平和的解決から外れると認識している
これは筆者の姿勢以前に、中国が従来拠ってきた棚上げ理論からも、現状を変える手段ゆえに批判されるものではありますが、いずれにせよ、筆者において上のような認識がされていることは間違いないようです。


・筆者は、軍に近い人物と思われ、実際は政権批判の意図を(も)持っていると思われる
これはよく言われることですが、中国では領土問題の意見が政権批判の趣旨を含むことはよくあることのようです。実際、これについても、中国書くあるべし、とは書いていますが、従来の中国の外交方針に真っ向から反対するようなことを書いていますので、政権批判の意図が主眼の記事だと思います。


以上ですが、あくまでも私見なので、的外れな部分が多くあるとは思います。

この記事を読んで私が思ったのは、日中間の認識の乖離・すれ違いの深刻さと、日本の認識の甘さです。

上に引用した中国人の筆者の意見を読むと「何を訳の分からないことを言っているんだ」と思う日本人が大多数でしょう。確かに、これはあくまでも一コラムであって、中国政府の、或いは中国人一般の意識を表したものではありません。しかし、このような主張が飛び出すということは、少なくとも一部の中国人の間でこういった主張が受け入れられているということです。それでは、逆に、日本で流通している主張が、中国人から見たら荒唐無稽ということがないと言い切れるでしょうか。

たとえば、「靖国について、自分の国でやってることについて他国に口出しされることではない」というのは、一つの合理的な主張だと思いますし、私も口出しされてうれしいとは思いません。しかし、上に書いた通り、それが中国人からどう見えるかというのはまた別の問題です。口出しされることではない、という主張をする以上は、それが相手にとってどう見えるかということ(や、それが国益にどう影響するか)を想像した上ですべきではないかと思います。一方で、中国側も中国側で、領有問題を言い始めたのは明らかに尖閣周辺の海底資源の存在が明らかになってからなので、日本から見れば非常に勝手な話です。こういった具合に、尖閣に関わる問題については、認識の乖離・すれ違いが多くあるように思います。

この点、領土問題には、ナショナリズムと絡んだり、国民の間で神格化されたりすると、政治家が国民の顔色をうかがって強硬な対応に出ざるを得なくなる*4という特徴があります*5から、両国民の間における認識の乖離は、国家間の見解の深刻な対立をもたらし、不幸な結果を生むでしょう。そういう意味では、チキンゲームをするよりも、お互い柔軟に構えるほうがいい結果が生まれることもあるのではないでしょうか。特に、仮に中国政府が、尖閣は中国の「不可分の領土*6」なんて言ったりした日には、行くところまで行くしかなくなるでしょう。

そして、認識の甘さ、というのはこの点についてです。
たとえば、上に書いたように、東京都が今やっている行為というのは、中国からしたら既に平和的解決方法から外れているとしたら、中国側も何も対抗措置を取らないというわけにはいかなくなるでしょう。そうしないと、政権担当者は、上に引いた記事の筆者のような強硬派から突き上げを食らいますし、国民もそれに同調することが考えられるからです。そして、同筆者が言うように、行くところまで行く、というのは、武力衝突もありうるということです。武力衝突をすることで得られる中国の政権担当者の利益が、失われる利益より大きくなれば、政権担当者は迷わず武力行使をするでしょう。たとえば、突き上げが強くなり、政権担当者が政権から追われる危険が現実化した場合、政権担当者が武力行使を選択しないと言い切れるでしょうか。

領土問題について強硬な主張をするのはいいですが、そのような主張をされる方は、本当にそこまで念頭に置いて主張しているのでしょうか。この点について私が理解に苦しむのは、石原都知事がなぜ急に尖閣問題について具体的な行動をし始めたのかということです。その行動は従来の棚上げ理論に抵触するので、反発があることは容易に想像できます。考えられるとしたら、日本の国力と中国の国力差が大きくなり、米国が日本を見捨てるというじり貧を避けるために今喧嘩を売ったということくらいですが、どんなものでしょう。

今日はあまりに虚言が過ぎた部分もありましたが、ここまで日中間で意識や認識が乖離するのだなあという衝撃のあまり、ここまでつらつらと書いてしまいました。


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*1:英文をあたっていないので、厳密には事実と言い切ることはできませんが。

*2:念のため書いておきますが、私は靖国参拝の是非について書いているわけではありません。上のように大挙して押し寄せると書いているのは、私が同日に参拝しているから書けることです。

*3:この趣旨は「歴史の問題」ではなく、自国の歴史をどう認識するかの問題ということです。

*4:念のため、中国は一党独裁で民主主義ではないからそんなことはないはずだというのは成り立たない主張です。

*5:また、強硬な主張は一般的に国民受けがいいので、そういった主張をする動機と言うのは政治家一般にあると思われます。

*6:中国語表現でいう「中国不可分割的一部分」。台湾や東トルキスタンといった、中国政府の見解では譲れない領土について使用される表現。