今週の気になった微博の投稿

最近、和光から戻ってきてインターネット環境等がよくなったので、再び微博をチェックするようになりました。そこで思いついたのが、微博でRTランキング上位のツイートの和訳をすれば、自分の中国語力アップに加え、中国で今どんなことが話題になっているのかを知っていただけると一石二鳥!というアイディア。

そもそも微博は、友人の律師*1に、中国語の勉強と中国の今を知るには微博が一番!とごり押しされたことに加え、先日お話する機会があった中国人の方で日本企業に10年余り勤務している方にも同じことを言われたのでしっかりと見始めたのですが、見ているだけではもったいない!というくらい、日本のメディアでは得られない視点・中国のみならず世界中のニュースがそこでは流れていますので、紹介しちゃおうと。

特に、「中国は社会主義で、ばりばり国家が社会を統制しているんだよね?」と思っている人が少なからず日本にいらっしゃるようですが*2、微博では、そこまで言って大丈夫?と思うような投稿もそれなりにあったりしますので、そんなに分かりやすい理解ができる国ではないと思っていただくにはいいかなと思ったりしています。ただ、投稿をよく読むと、政府批判は絶対にしていないということに気づくことができたりしますので、それはそれで面白いかなと*3

ということで、相変わらずどこまで続くのかわかりませんが、不定期更新でやっていこうかなと。同じく不定期更新の修習の感想は、しばらく途切れていますが、そのうち書きます。たぶん。


1 中国人の性格と自己批判
投稿者:许文广氏

从新加坡到民丹岛要坐55分钟快轮。乘客八成以上是国内来的同胞。闸门一开,大家争抢着涌向甲板。我听到裹挟在人群中两位老外的声音。一位问:"这船难道不会等我们吗?"一位问:"不是人人都有座位吗?"被后面的乘客推着向前冲的我,苦涩地回味着这两个问题:手里握着船票的争先恐后的我们,到底怕错过什么呢?

この投稿の内容は、シンガポールからミンダナオ島へ渡る船に乗り込もうとして押し合いへしあいする中国人旅客を見た外国人(中国人ではない人という趣旨です)2人が、「この船は我々を待ってくれないんですか?」「座席は全員分あるのではないのですか?」と尋ねたため、投稿者は苦い思いをしながらこの問いを噛みしめ、われ先に乗ろうとしている我々は、いったい何を逃すのを恐れていたのだろうと思った、というものです。

私も中国で目上の中国人と旅行したことがあるのですが、駅で列車のチケットを買うために窓口で一列で並んでいると、私の後ろに並んだその方がやたら押してきます。そこで、一列に並んでいるのに押したって意味ないと思うんだけど何で押すの?と聞いてみたところ、以前の中国では列に並ぶなんてことをせずに、窓口に無秩序に押し寄せていたので、その時の習性が残っているのだと思う…と言われたことがあります。

確かに私が中国に住んでいた1990年代中ごろは、窓口にせよ、バスに乗るにせよ、とにかく並ばず、われ先にと押し合いへしあいするというのが普通でした。最近では、少なくとも北京や上海については、駅では指導員みたいな人がいるのでだいぶ改善されているようには思いますが、押し合いへしあいが通常だった時期が長い方にはそういう習性が残るんでしょうか。中国人自身も、少なくともそれなりに教養文化を備える人たちには、自分たちのマナーの悪さに辟易している人たちも多く、駅の広告スペースにマナーを守ろう、というような広告が出ていたりしますし、日本のマナーの良さを学ぼうというような文章もたびたび目にします。しかしながら、上のような習性はなかなか抑えられないということや、誰かが割り込もうとすると、それを批判するより、自分も損をしたくないという思いが先行する人のほうがまだ多いということから、まだまだ現状中国のマナーは日本に比べ悪いという印象です。

日本も最近やたらマナーを訴えるポスターを電車内等で見るようになりましたので、あまり他の国のことを言えないかもしれませんが…電車とかでわれ先に乗り込もうとする人は結構いますよね。


2 司法の独立
投稿者:何兵氏

【司法独立是西方的吗?】《人民日报》发文称,人民法院十年来,扺制西方司法独立的错误思潮。普及点常识。日本司法独立,韩国司法独立,印度司法独立……我国台湾、香港、澳门全都司法独立。司法独立是西方的,还是世界的?

この投稿の内容は、人民日報の投稿が言うには、裁判所は十年来、西側の「司法の独立」という誤った思想を抑制してきたとのことだが、常識に照らせば、日本も韓国も、インドも、わが国の台湾も、香港も、マカオも全て司法は独立しているのであり、司法の独立は果たして西側の思想であるか、或いは世界の思想であるか、と問いかけるものです。

まず、立憲主義のもとでは、司法の独立、すなわち司法部が議会や政府等の政治部門から独立した存在であることが要求されます*4。この思想は、もちろん、ロックやモンテスキューあたりが言い出しっぺなのですが(目を逸らしながら*5)、わが国でも採用されており、たぶん上に書いてあるような国でも採用されているのでしょう(調べてません)。そこで、上記投稿は、それらを引き合いに、中国で司法の独立が採用されていないのはおかしい、とするものです。

現在中国では、憲法上裁判の独立が規定されており*6、現実にも、以前に比べれば裁判の独立が実現されてきていると評価されているようです。司法試験が整備されて10年が経ち、裁判官にも法律専門家が増えてきていますから、事実上判断が専門化し、口出ししにくくなっているのではないかとも思えます。
ただ、一方で、制度上、中国の裁判所内部では、法院院長や裁判長で構成する裁判委員会が、重大案件について判定権を持っていますし、党の執行部と政法委員会は、司法機構の運営や司法過程に介入しているとも言われます。そうすると、確かに中国では、実質的に司法の独立が未だ達成されていないと言えるかもしれません。

ただ、中国の記事、特に、当然ながらリベラル側の発言に良く見られるのですが、でありがちなのが、「外国は素晴らしい!→中国はダメダメだ!」パターンです。しかし、これは当然ながら、隣の芝生は青いパターンに陥りがちで、たとえば、上の投稿なんてまさにそうですけれども、日本の司法の独立についても、歴史的に見て実質的にそれが危機にさらされていたことだってあったでしょう*7。この投稿者の方が、その辺りをどこまで認識して投稿しているかはわかりませんが、結局隣の芝生は…ということで、他国を引き合いに出すのは難しいということはよくわかります。

また、揚げ足取りのようですけれども、上の投稿では司法の独立が世界的思想だと仰っていますが、それって貴方の見たい「世界」ではなくて?と思わなくもありません。厳密に計算したわけではありませんが、実質的な司法の独立が達成されている国家なんて、世界では少数派でしょう。
ということで、教訓としては、「グローバルスタンダードって眉つばだよね」ってことでしょうか。


とまあ、もうちょっと投稿を数紹介するつもりが、憲法の話になるとどうしても細かいコメントをつけたくなっちゃってコメントをだらだら書いてしまいました。どう考えても読者の方は私のコメントよりも、投稿の邦訳に価値を見出されると思うので、今後は自重して続けて行きたいと思います。

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*1:中国の弁護士。これは、中国人の弁護士という趣旨ではなく、中国の弁護士資格を有する弁護士という意味です。

*2:中国=社会主義、よって○○(結論)という思考回路に立たれる方は、大変遺憾なことにインテリの間にもそれなりにいるようです。この部分、国家が社会統制を志向しているのはある程度正解でしょうが、そんなに分かりやすい問題ではないという意味では、この理解は誤りだと思います。

*3:感覚的な話ですが、国家制度批判は見られますけれども、政府や党の批判はなかなか見られません。

*4:マニアックな話ですけど、立憲主義(Constitutionalism)=国民の権利保障+権力分立。また、立憲主義はふつう立憲民主主義のことを指すので、これに加えて民主制も含む、と思う。

*5:自信がない。

*6:中国82年憲法第126条。「人民法院依照法律规定独立行使审判权,不受行政机关、社会团体和个人的干涉。」とされる。邦訳すると、裁判所は、法律の規定に従い独立して裁判権を行使し、行政機関、社会団体及び個人の干渉を受けない、となります。

*7:たとえば、評価はともかく、田中耕太郎長官が、砂川事件判決前に米国と接触していたという歴史があります。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E4%B8%AD%E8%80%95%E5%A4%AA%E9%83%8E#cite_note-3