給費制廃止違憲訴訟についての若干の感想

先日の記事が某裁判官のFBに掲載され、気づいたら10日で1万アクセス。さすがです。


修習生の頃に某裁判官のFBに掲載されたことがありました。その際もアクセスがどっと増えたので、ご紹介いただいたお礼(?)に要件事実マニュアルの宣伝をしたような記憶です。

ということで、今回も宣伝しておきますが、弁護士になった今も、要件事実マニュアルは執務机に置いてあります。修習生の頃は、要件事実の勉強用にしていましたが、今では、法律相談を受け、訴訟になったときのことを踏まえて検討するにあたり、相手方の反論を取り急ぎ予想できて便利だなあと思っています。ただ、旧版のままで新しいのは買ってませんが…


そんな某裁判官のFBで給費制の話が書かれていて気づいたのですが、給費制廃止違憲訴訟の第一回口頭弁論が既に行われていたんですね*1。少し雑駁な感想を書きます。


給費制については、本ブログでもたびたび書いてきましたが、私の意見は、修習前から今に至るまで変わっていません。すなわち、法曹界(主に弁護士)にとって重要なのは給費制維持ではなく、弁護士を志す人々に、弁護士になった後食っていくのが大変で、貸与制の金を返せないこと、或いは返すのが難しいのではないかと思われている現状を何とかすることです。志望者が減れば、弁護士の質は下がります。また、金銭的に余裕がない人たちが弁護士を志望しなくなれば、弁護士の多様性は失われます。これは、弁護士のレピュテーションを低下させ、弁護士業に悪影響を与えるのみならず、弁護士が社会システムにとって一定の公的役割を果たしていることからすれば、社会にとっての損失でもあります*2


修習中に貸与されるのは約300万円で、無利息・修習修了から5年後返済開始・10年払いです。これは、ふつうに働いていれば返せない額ではありません。そのような額をもって弁護士の夢をあきらめるのは、弁護士になった後ふつうに働いて食っていくのが大変だから、或いは大変と思われているからでしょう。法律家志望者が減っている最大の理由は、このような将来に対する漠とした不安であって、それを解決しないと、弁護士志望者は絶対に増えないでしょう。これこそが最大の問題であり、以前書いたように*3、法曹になるまでの負担としては、ロースクール及び修習開始までの費用もかなり大きいことからすれば、給費制復活によって懐事情がただちに改善するわけではありません。


給費制の復活を唱えることは一つの考え方として理解しますが、訴訟に勝てるとは思えません。弁護団にはベテラン弁護士の先生方が多く参加されていますから、そのことは理解されているでしょう。それでも訴訟を起こすというのは、国民に対するアピールとしての政治活動目的によるものだと思います。しかし、給費制復活を求めるというのは、いまだに特権階級と思われている法曹が金をくれくれ言っていると見られ、功を奏さないだろうとも思います*4


また、このような訴訟によって、修習専念義務の廃止・緩和が推進されることも懸念しています。給費制を強硬に唱えることで、そちらの考えが推し進められ、修習の廃止や任意参加制へと突き進む可能性があるように思うのです*5*6。修習という素晴らしい制度が廃止されるのは、私に言わせれば愚か以外の何物でなく、最悪な結論です。


結局、予算は限られており、法律家育成についてはロースクールが多額の予算を取っている以上、それに加えて修習生に給費を与えることはできないという話だと思いますので、ロースクールを廃止しない限りは変化は起きないでしょう。しかし、それはあまりにも非現実的です。ちなみに、弁護士会会長選挙では、ロースクール廃止を訴えた候補は負けています*7


あと、以下はまさに感想ですけれども、こういう時によく出てくる「修習生貧困物語」みたいな話には違和感を感じます。本を買えずに回し読みしましたとか、借金の自虐ネタを言ってますとか聞きますが、貸与を受けていれば修習中に金銭が不足することはふつうないでしょう。これらも政治的目的のもと、わかりやすいストーリーを見せようとしているのでしょうが、手法としてあまり好きでになれません。後輩の皆さんに一つだけいうとすれば、そういうストーリーを気にして、修習資金を目的なく*8貯金するのは愚の骨頂だということです。修習中は、勉強のために金を惜しんではいけません。たとえば、修習生であれば、裁判官や検察官も、あまり警戒することなくいろいろ教えてくれます。少なくとも、法曹になるならば、裁判官や検察官との懇親会に金を気にして参加しないなんて愚の骨頂です。


最後に、こういう記事を書くと、だいたいツイッターやらで「恵まれた人はいいね」と書かれるので、以下予防線です。


私は法学部生の頃から司法試験の直前まで、ずっとアルバイトをして生活費を稼ぎ、親からの仕送りは学費だけでした。それでも東京での一人暮らしは金がかかるので、借りていた奨学金と修習での貸与金とで、借金は合計900万円あります。


また、今まで書いた記事で貸与制について関係するもののリンクを貼っておきます。


・修習生の懐事情について:修習にて思うこと(3)―修習と先立つもの - 実験農場-Life is Fake-
 こちらの記事は、修習生の支出の変動要因を中心に、懐事情について書いています。


・修習時代の収支概要:修習にて思うこと(4)―いち修習生の家計簿公開 - 実験農場-Life is Fake-
 こちらの記事は修習当時のもので、当時のリアルな思いを書いています。

492799

*1:http://kyuhi-sosyou.com/

*2:そう思うのは自分が弁護士だからで、そう思われていないからこそ、給費制復活が支持を得られないのでしょうが。

*3:http://d.hatena.ne.jp/he_knows_my_name/20101007

*4:それでもやるのは、他に手だてがないのかもしれません。確かに、ロースクールを廃止しない限り、法曹志望者の懐事情は改善しないでしょうが、それが不可能である以上、せめて修習は給費制にしようというのは、一つの考え方として理解できます。

*5:http://kyuhi-sosyou.com/blog/?p=174

*6:労働契約との比較で言えば、専念義務がなくなれば給費制とする理由は弱くなると思います。

*7:http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140207/trl14020720440003-n1.htm

*8:たとえば、即独資金として貯蓄するというのはアリだと思っています。