弁護士の採用活動にて思うこと

司法試験が終わって半月、弊事務所にはリクルートの季節がやってまいります。


このリクルートというもの、大きな事務所でアソシエイトが山のようにいるとそんなことはないのでしょうが、弊事務所のような中堅事務所にとってはなかなかしんどいものでして、とりわけ二年目の丁稚アソシエイトである私にとっては、通常業務に加えてリクルート関係業務もとなると、途端に勤務時間が長くなります。

私の場合、通常業務だけの時期でも終電くらいまで働いていますので、リクルートが入ると、途端にタクシー帰りが増えます。それでいて朝は普段通り出勤するので、睡眠不足です。それでも、弁護士事務所の発展は、弁護士と事務局(秘書)という人材に支えられているわけですし、我々丁稚アソシエイトにとっては、数年後事務所に入ってきてもらって自分と一緒に業務を担当してもらう方には、「より良い」人材をと願う気持ちもありますので、いい加減な気持ちでこなすわけには行きません。眠い目をこすりながら頑張っています。


それはさておき、リクルート活動については、私自身以前、採用される側の立場で色々書いてきましたが(弁護士の就職活動および司法修習関係記事まとめ - 実験農場-Life is Fake-)、弁護士になってからのこの1年半ほどの間、採用する側の立場を体験しましたので、まとめてみようと思います。自分も若輩者で、まだ到底偉そうに「採用」等と言える立場でもなければ、リクルートにおいて責任ある立場にいるわけでもないので、このようなことを書く資格がないことは自覚していますが、それでも就職活動で悩んでいる後輩の方々の一助になれば幸甚です。なお、いつも書いていますが、以下は私の意見であって、所属する事務所(公開していませんが)の意見とは一切関係ありません。


1 採用の段階とその目的
一般的に、この時期の採用活動というのは以下のようなステップを経ることが多いのではないかと思います。
(1) 履歴書(エントリーシート)、成績表を事務所に提出
(2) 事務所での面接(集団・個別)
(3) 食事

これらの目的は私の理解では以下のとおりです。
まず、(1)は、一般的に募集すると到底面接できないくらいの数の応募が来るので、面接に進める方を選出する、悪い言い方をすればそれ以外の方を「足切り」するために行っています。
次に、(2)は、各事務所によるでしょうが、普通は面接という場面でのやり取りを通じて、コミュニケーション能力、説明力、思考力、マナー等を見るために行っています。
最後に、(3)は、(2)では見ることができないような能力や人格を見るために行っています。食事の場で一定時間一緒に過ごすことで、面接では見えなかったその方の能力や人格が見えてくるのです。

以下、各ステップごとに、これらの目的を前提にしてもう少し具体的な話を書いてみます。


2 (1)履歴書について
この2年で履歴書数百枚を読みましたが、感想を一言で言うと、「グッとくる履歴書は20枚に1枚くらいしかない」というところです。
前記のとおり、履歴書の目的は「足切り」です。そして、「足切り」の一番簡単な方法は、大学入試や司法試験のように、成績、つまりGPAと英語(TOEICTOEFL)です。したがって、グッとくる履歴書がない場合、読み手としては、成績と英語で決めるしかないということになります。また、面接に呼んで結果がひどかったとしても、成績優秀者を読んでひどかったら仕方ない*1ということにもなりますので、読み手には常に成績での足切りをしたいという動機があることになります。

そうすると、「足切り」にかからないためには、「この人を呼んでみたい、話を聞いてみたい」と思えるような内容の履歴書を出すのがいいでしょう。特に、私のように成績がイマイチ*2な方ほどその努力をする必要があります。バレーボールで言うと、思わず読み手が打ちたくなるいいトスを上げるイメージです。それが何なのかは人によるでしょうが、奇をてらう必要はなく、自分の人生においてしっかり取り組んできたこと・それによって学んだことのエッセンスを記載するイメージです。(2)の面接では、履歴書をもとに質問がされますので、自分のセールスポイントやつっこんで欲しいネタ等を盛り込みましょう。

また、いいトスを上げるためには、トスの上げ方、つまり文章の書き方を工夫する必要があります。人によっては、綺麗に纏めることを履歴書の目的と勘違いしているのではないかというくらい、綺麗な・抽象的な言葉(「リーダーシップがある」「責任感が強い」「チャレンジ精神がある」等々)で埋め尽くされものを提出される方もいらっしゃいますが、そういうのはあまり意味がありません。むしろ、そのような抽象的な評価に繋がる前提事実を一定程度具体的に書く必要があります。

たとえば、同じリーダーシップという話を書くにしても、
「私は学生時代サッカーのサークルの代表をやっていて、メンバーをまとめていました。チームはバラバラでしたが、私のリーダーシップにより最終的には、●●といった成績を上げることができました。以上のことから、私には他人にはないリーダーシップがあると自負しており、これはチームプレイが求められる大規模M&A業務等において必ず有用であろうと信じております。」
というのと、
「私は学生時代、30人のサッカーサークルの代表を務めていましたが、任意参加のサークルという性格上メンバーの手助けを得るのは容易なことではありませんでした。しかし、グラウンドの確保やメンバーへの連絡等、ロジ周りを自主的に行い、メンバーに積極的に声掛けをするというように、自分で汗をかくことで、最終的にサークルのメンバーも協力してくれるようになりました。結果的にチームの力もアップして、●●といった成績を残すことができました。このように、私は、リーダーシップを発揮すべき場面で必要とされる能力を持っていると自負しております」
とでは、後者の方が課題の発見から解決方法、それによって得られたものといった過程がクリアーになっていていいでしょう。抽象的な内容だけ書かれても、読み手にはまったく伝わりませんので、最終的には中身がスカスカという評価を受けてしまいます。上の例で言うと、「リーダーシップ」という結論に至るまでの過程をきちんと書くという意味では、司法試験の答案みたいなもので、「あてはめ」をきちんと書かない履歴書は評価が低くなってしまいます。

なお、些末な話も若干しておきますと、誤字や変な日本語は読み手の心証を悪くします。また、意外に顔写真も心証に影響します。さらに、送り状等をきちんとつけているか、メール等のマナーがどうかといったことも、一応見ています。
当然ですが、それらだけで足切りするかどうかを決定することはありえませんが、誤字や変な日本語は、履歴書を読み直していないことが推察され、書き手の真剣さを疑いしめますし、顔写真の服装が私服だったり、髪の毛がぼさぼさだったりというのも、第一印象が悪いです。
そんなことで心証を悪くしても意味がないですし、少しの努力で修正できることですから、その辺りはさぼらないほうがいいのではないかと思います。


3 (2)事務所での面接について
おそらく面接は普通30分から1時間程度ではないかと思いますが、そこで見ているのは、主にコミュニケーション能力、思考力、マナーです。

一番わかりやすいマナーから言うと、これは言ってみれば減点要素で、2で書いた誤字のようなものです。これだけで評価が決まることはふつうないですが、一般的なマナーから外れたような方の採用は躊躇するように思います。また、これはマナーに属する話か微妙ですが、面接を受けるのは自分であるという立場を理解できていない態度を見せる方を採用することはあまりないように思います。

次に、コミュニケーション能力と説明力、思考力について、これらは説明しにくいものですが、あえて説明すると以下のようになるでしょうか。

コミュニケーション能力は、当方の発言の趣旨をきちんと理解し、きちんと趣旨を踏まえたレスポンスをできるかどうか。喩えて言えば、会話のキャッチボールがきちんとできるかということかと思います。面接でよく思うのは、当方の発言や質問の意味がわからないならわからないと素直に言ってもらえばいいのにということです。緊張するのは当然ですし、当方の評価も緊張状態にあることは前提にしていますので、あくまでも自然体で会話をするイメージで臨むのが良いのではないでしょうか。

説明力は、自分の言いたいことをきちんと当方にわかるように説明できるかどうか。自分の言いたいことが頭の中にあっても、それを第三者に理解してもらえるように伝えるのは思いのほか難しいものです。面接では、当方の質問に対し、とりあえず言いたいことを思うがままに喋り倒す方がいらっしゃったりしますが、面接というのは喋ればいいというものではありません。きちんと自分の伝えたいことを過不足なく相手に伝えるよう努力するのがいいでしょう。小学生にもわかるようにわかりやすく丁寧に伝えるのがポイントだろうと思います。また、自分が口がよく回ると思う方は、あえてセーブするように、口下手だと思う方は、ゆっくりでも順を追って、焦らず丁寧に説明するように心がけるといいのではないかと思います。自分は前者なので、ゆっくり・丁寧に話すことを心がけていました。

思考力は、こちらが問いかけた質問の趣旨をきちんと理解し、質問に対する回答を自分なりに思考してレスポンスできるかどうか。また、その思考過程でわからない前提事実等があれば、すぐに質問できるかどうか。このあたりはコミュニケーション能力と重複するように思いますが、面接では、当方の質問を理解できないまま急いで回答し、結果コミュニケーションがうまくいなかいというパターンに陥ることがあります。相手がいったい何を問いたいのかということを理解しようとし、いまいちわからなかったら失礼のないように聞き返すことが必要です。また、回答は、自分なりに考えて思うところを述べればいいのであって、それ以外は考えなくてよいかと思います。

実は、面接で見る以上の能力は、いずれも弁護士として必要不可欠な能力です。弁護士はサービス業ですから、クライアントと接する際にマナーを失してはいけませんし(マナー)、クライアントの相談内容を理解し(コミュニケーション能力)、相談内容を検討し(思考力)、結論を説明する(説明力)のは、弁護士として必要な基本的な能力です。面接では、弁護士として必要な基本的な能力(の素地)があるかどうかを見ています。

2同様、些末な話をしますと、履歴書に書いてあることをもとに質問をして話が盛り上がらないと、面接をする側はがくっときます。たとえば、履歴書に、ロースクール時代は事業再生のゼミに所属していて、興味のある法分野事業再生とある方に、事業再生の話を振ってみて、まったく話が盛り上がらないと、面接の場気まずい雰囲気になります。履歴書でプッシュした話は、突っ込まれてもある程度話ができるよう予習或いは復習しておくのがいいのではないでしょうか。


4 (3)食事について以上2で記した能力以外に、採用側として気になるのはその方の人格(平たく言うならキャラ)です。

(2)の面接で、一定程度の能力がある場合、最後にこの人格を見ようということになります。弁護士は、同僚弁護士とは家族以上に一緒に過ごすわけですから、仮に能力があっても、事務所の雰囲気と合わないと、相互に不幸なことになります。そこで、酒の席という少々くだけた雰囲気で、その方とお話して、人格を見てみようということになるのです。

ここでは、特に何をすればいいなんてことはありません。その事務所の雰囲気と合うかどうかはもはや運のようなものですから、普通に会食を楽しむしかないでしょう。無理に人格を装っても意味がありません。ただ、そういった場面であまり「素のキャラ」が見えないと採用に躊躇することになると思います。一方で、余りにはっちゃけすぎるのも考えものです(お酒は適量で!)。普通にふるまいましょう。


5 リクルート活動中の皆さまへ
以下、無用のことながら若干私の意見を述べます。

私はリクルートというのは、恋愛のようなものだと思っています。
採用する側も、採用される側も自分に合った相手を選びたくてやっています。ですから、採用される側は、自分の能力や人格をアピールすることに力を尽くすべきですし、採用する側も、相手の能力や人格を注意深く見るべきなのです。その上で、お互いに合った相手を見つけられれば、これ以上の事はないでしょう。

このような私の理解から言いたいことが二つありまして、一つは、リクルートは、内定を数取ればいいというものではありません。巷では、内定の取り方のような書籍が流行っているようですが、私の理解とは相いれません。恋愛と一緒で、モテればいいというものではなく、最終的には最高の相手を見つけるのが至上命題でしょう。モテ自慢ではなく、自分にとって最高の相手を選んだと自慢できるように、自分にとって最高の事務所を見つけるのがリクルートの目的です。リクルートの目的を見失わないようにしてください*3

もう一つは、採用される側の方々には、「採用する事務所がどんなもんか見てやる」くらいの気持ちを持ってもらいたいと思います。弁護士にとって最初に入る事務所は、弁護士人生のスタートラインであり、以後の弁護士としてのキャリアの基礎を固めるために多大な影響を与えるものですから、どの事務所に入るかというのは、弁護士人生における重大な決断です。世間の評判など気にせずに、自分の目でその事務所を見て、自分にとってその事務所がどうかということをきちんと検討しましょう*4。さもなくば、入所した後「こんなはずではなかった」ということになり、事務所をすぐに退所してしまうということになりかねません*5。また、採用する側から見ても、少なくとも私は、そういった突っ込みをしてくれる方の方が、真剣にうちの事務所を見てくれていると理解します。

私の経験をお話しますと、私がリクルート活動をしていた際は、訪問した事務所について、以下の点を見ていました。
まず、アソシエイトは魅力的か。アソシエイトは、その事務所が将来をゆだねる人材である訳で、その人たちを自分が魅力的と感じられないとすれば、自分が入所後その人たちとうまくいかないだろうと思っていたからです。リクルートでは、若手アソシエイトが出てくることが多いので、その人たちを観察していました。

次に、パートナーとアソシエイトの関係はどうか。アソシエイトがパートナーの前で萎縮していて、アソシエイトがパートナーに物申せないような事務所には入りたくありませんでしたし、そういう事務所で我が強い自分がやっていけるとは到底思えなかったからです。パートナーとアソシエイトの関係を見抜くのは容易なことではありませんが、食事の場でのパートナーとアソシエイトとのやり取りや、パートナーがアソシエイトに指示を出す瞬間等から結構透けて見えます。

最後に、その事務所の雰囲気は自分にとって合うかどうか。自分が長い時間を過ごすであろう事務所が自分に合う事務所でなければ耐えられないであろうと思っていたからです。

私の場合、このような観察の末もっとも魅力を感じていた今の事務所にたまたま内定をもらうことができました。今になって思うと、最後の決め手は、業務内容でも給料でもなく、この人と働きたいと思えるアソシエイトがいたことと、それを含め、事務所の空気が自分に合うのではないかと思ったことでした。なお、リクルート活動中にアソシエイトだったその弁護士は、私が入所した時にはパートナーとなっており、現在私はその弁護士の案件にを複数アサインされていますが、非常に楽しく仕事ができています。逆に、その弁護士がいなければ、サマークラークのオファーを頂いていた中国法務の強い事務所に心が動いていたかもしれませんし、魅力的な先生方がいらっしゃる修習地の事務所に就職していたかもしれません。

以上のように、リクルートというのは最後は「縁」なのだろうと思っています。
弁護士人生においてリクルート活動は一度しかありませんが、その弁護士人生に及ぼす影響は多大です。
そのような重要な人生の局面において皆さまが良縁を掴みとれることを心よりお祈りしております。


519205

*1:逆に言うと、成績が悪い方を呼んで面接がひどかったら、読み手は「成績」の言い訳をできないことになります。

*2:ロースクールで半分より下でした。

*3:とはいえ、ともあれ内定を取らないとという気持ちになるのは理解できますし、まずは内定を取るべきというのも合理的だとは思います。しかし、それはリクルートで最も重視すべき目的ではないと考えています。

*4:その意味で、採用する側としては言いにくいことですが、内定を得た後も、他の事務所も見てみて、場合によっては内定を辞退するというのも考えていいと思います。

*5:私の同期でも、私が知っている範囲で数人が、既に事務所を移籍しています。