読書の話

今年も気づくとあと2週間ほどとなりました。齢を取るごとに、一年が早くなると言われますが、私にはまだその実感はありません。弁護士になって満6年ですが、それぞれの年にはそれぞれの思い出や挑戦があったように思います。

今年の振り返りはまたそのうちとして、去年くらいから、時間があれば本を読むようにしています。具体的には、通勤路の途中にある本屋に2週間に一度くらいは立ち寄り、気になった本はさっと立ち読みし、有益と思えば全部買います。正直に告白すれば、もちろんそれらの半分くらいは積読になり、そのうちの半分くらいは旬をすぎて読まれることがないまま朽ちていきます。しかし、その時点での自分の問題意識を確認する意味でも、最終的には読まずとも置いておくだけでも意味があるだろうと思って買っています。

また、私は、週明け時点で手元に積み残した仕事が内容な状態で迎えるようにしているので*1、稀に、エアポケット或いは凪のような日が生まれることがあります。その際に積読本を消化しています。

本を読むのは、もちろん趣味のためが第一ですが、弁護士業のためでもあります。私の仕事に対する意識として、「情あれど理なきは愚、理あれど情なきは鈍」というのものがあり、弁護士は専門職ですので、専門的な能力で理論的に法的問題を解決する能力が第一ですが、その問題が社会で起きている以上、世の中の常識や人間の感情にも敏感でなければなりません。より具体的に言えば、弁護士が誰かを説得するには、理屈を分かりやすく説明すれば対象者は理解ができますが、だからといってそれを受け入れてもらえるかは別の話で、話の持って行き方や説得の方法においては、対象者の感情に敏感でなければなりません。このあたりを学ぶには書籍は最良のツールでしょう。

また、年次が上がると、様々な方とお話しする機会が増えます。その際に話題に困らないようにすることや、自分に求められる専門分野を増強するためにも、読書は有益です。雑な言い方ですが、できる人はやはり勉強をしているので、少なくともその方の話の中味を理解するには、ある程度幅広な知識が求められます。それにはやはり読書は一つの有益なツールです。

前置きが長くなりましたが、最近読んだ本で面白かったものを二冊。

www.kadokawa.co.jp応仁の乱」の著者の一冊です。ちょくちょく現れる歴史上の陰謀論をばっさり否定していきます。私の理解では、歴史学というのは、法律家がする事実認定と類似するところがあり、史料の信用性を吟味しながら史実を定めていくという作業をするものですが、最近世間ではその辺りを無視した議論が跋扈している印象もあります。学会はそういうものには取り合わないのでしょうが、著者はこの現象に危機感を抱いており、わざわざこのような書籍を書かれています。具体名は出しませんが、歴史書の振りをして出典がなく、検証・反論不可能な書籍が幅を利かせている世の中では、このような研究者がいらっしゃるのは本当にありがたいことだと思います。

 

www.ikedashoten.co.jp地政学について、わかりやすく解説したものです。地政学の本って取りつきにくい印象ですが、この書籍は、現代の国際情勢を踏まえて書いてくれているので、読みやすいです。交通手段や兵器の進化はあるにせよ、地理的条件というのは基本的にそう大きく変わらないので、一度地政学の視点を持つと一生役に立つだろうと思います。

 

*1:この癖は、非紛争案件と中華圏案件が増えるようになってから付いたものです。国内の紛争は、サイクルが遅い(たとえば訴訟期日は多くても月1回)一方で、国内外の非紛争案件(特に中華圏の業務)はサイクルが早いものが多く、対応スピードが重視されるため、手元に仕事を残しておくと反応が遅れます。