弁護士9年目を迎えて

無事弁護士9年目を迎えた今年から、現在の事務所でパートナーに就任することになりました。幸か不幸か、新卒で入った事務所でそのままパートナーになることとなりました。そこで、以下に、何を考えて事務所に残ろうと思ったのかを書いておこうと思います。

私は弁護士5年目くらいから、大変ありがたいことに、ベンチャー企業を中心として、私自身の顧客が増えてきました。そのため、パートナーのオファーを受けた時点で、友人の事務所に合流し、または直ちに自分で独立しても問題ない程度の売上は期待できました。つまり、その時点で、手元には、パートナーになるというカードの他、独立というカードがあったということになります。しかし、私は前者を選びました。これは、世界で戦う日本企業をサポートできる一流のチームを作りたいという思いを実現するためには、今の事務所でパートナーになるのが最適解のように思えたからです。

おそらく、それなりの規模の事務所では「パートナー」というと魅力があるのが一般的な理解でしょう。しかし、私は、弁護士は一騎当千であるべきという発想が強いため、「パートナー凄い!」という発想が嫌いでした*1。また、このような発想があることに加え、私自身の顧客の大部分が、私の所属事務所にほぼ関心を持っていないことから、パートナーという看板に魅力を感じていませんでした。

しかし、今から事務所を立ち上げたり、新しい環境に入ってチームを立ち上げていくというのは時間の無駄に思えたのと、現在の事務所で一流のチームを作ることができる可能性を感じたことから、パートナーとなることとしたのです。

これが数年前であれば、海外研修ができていないことなどを理由に、パートナーのオファーをいったん保留するかしていたでしょう。しかし、ここ2年ほどの経験が、チームの必要性を私に痛感させ、かつ、そのチームを作るための時間というのは思ったほど残っていないということを認識したことから、さっさとパートナーになった方がいいと思うに至りました。

すなわち、2019年後半から、新しいジャンル・言語や、難易度の高い仕事が増え始めた一方、従前来扱っていたジャンルの仕事も減らないどころか増えるという、弁護士冥利に尽きるけれどもこのままでは死ぬぞというような状態が始まりました。

特に、2020年は、質量ともにチャレンジングな仕事を扱う機会が増えました。とりわけ、この年、コロナ禍で海外留学・長期研修の道が断たれた私は、是が非でも英語を身に着けるため、自分の縁で外資企業にパートタイム出向し、無理やり英語の仕事を増やすことにしたのですが、これがもう本当に厳しいチャレンジとなりました。もともと持っていた仕事が減るわけではない中で、慣れない英語の仕事が月一定時間増える訳です。弁護士人生で相当久しぶりに、空き時間の全てを仕事に突っ込んでも仕事が終わらない状態を数か月経験しました。

そうした「弁護士冥利に尽きながら死ぬ」状態が続いていた昨年、パートナーのオファーを受けたわけです。そのため、私にとってそのオファーは、この弁護士冥利に尽きる状態を、自分1人で対応できる範囲以外を放り投げて独立するか、自分のできる範囲を超えてチームで対応できるようになることを期待して残るかということの選択と同義となりました。そうしたときに、現在の環境を見ると、一流のチームを作ることができる可能性を感じる一方、敢えて環境を変えるほどの理由はありませんでした。

また、しっかりしたチームを作るとなると、チームメンバーとして優れた人材が揃った状態であっても、最低3年はかかります。加えて、チームのヘッドになれるような人材というのは、現在の私の環境では、5年から10年に1人の巡り合わせであろうという印象を持っています。そうすると、リクルートにも力を入れなければいけません。私は、専門分野ごとにチームを作るイメージを持っているため、少なくとも3つくらいはチームが必要であろうと構想しています。そうなると時間はいくらあっても足りません。したがって、新しい事務所に移籍したり、自分で独立したり、或いはパートナー就任を先延ばしするのは、時間の無駄でしかないという結論になりました。

ところで、7年目になった際にこのブログに以下を書きました。

一方、弁護士7年目となると、そろそろ進路の問題が出てきます。つまり、今いる事務所で経営側に回るのか、他の事務所に移るのか、独立するのか、或いはインハウス等の弁護士事務所以外で働くのかということです。

この判断をするに当たっては、弁護士を続けるとしたときに、その目的をどう考えるかが大切でしょう。もちろん自分の食い扶持を稼ぐのが職業の本質ですが、弁護士という職業は、職業≒人生となりやすいので、目的を持たないと、人生が無目的となりかねないように思います。ではその目的はと自問したとき、今は、「世界と戦える法律家チームを作る」というのが一つの答えになるでしょうか。日本が世界と戦うために必要となる法律家チームを構築し、企業の役に立ちたいということです。

それゆえ、私の進路に関する考え方はシンプルで、上の目的を達成するために何が一番いい選択なのかというに尽きます。

 これを書いた年(2019年)から、チャレンジングな状況が続きましたが、その結果、この考えは変わらなかったし、さらに考えを具体化する計画も見えたということです。

これは逆に言えば、今の事務所に残ってみて、やってみて、これが世界で戦う顧客の役に立つチームを作るという目的に叶わない環境であったなら、環境を変えなければならないということをも意味します。

それでも、結局自分は、それなりの所得でそれなりの生活を送るよりも、挑戦が続く生活を好むようであり、上の目的のためにハードワークをする方が趣味に合うようです。したがって、この目的を忘れないためにも、久々にブログに記事を投下した次第です。

顧客のために、自分の力を尽くして頑張る。それが、弁護士のあるべき姿だと思っています。今後も自身これを続けるとともに、これを実践する弁護士のチームで、より多くの価値を顧客に提供していきたいと思います。

*1:いざなってみると、友人知人が祝ってくださったので、なってよかったなと思ってはいますが、パートナーになったから凄いのだ・偉いのだという風潮には強い違和感を持ちます。顧客のためにいい仕事をすることだけが弁護士の価値であり、それが様々な理由で売上に繋がりやすかった弁護士がパートナーになるだけのことですから、パートナーでないからどうのこうのという議論は的外れでしょう。