弁護士の採用活動にて思うこと
司法試験が終わって半月、弊事務所にはリクルートの季節がやってまいります。
このリクルートというもの、大きな事務所でアソシエイトが山のようにいるとそんなことはないのでしょうが、弊事務所のような中堅事務所にとってはなかなかしんどいものでして、とりわけ二年目の丁稚アソシエイトである私にとっては、通常業務に加えてリクルート関係業務もとなると、途端に勤務時間が長くなります。
私の場合、通常業務だけの時期でも終電くらいまで働いていますので、リクルートが入ると、途端にタクシー帰りが増えます。それでいて朝は普段通り出勤するので、睡眠不足です。それでも、弁護士事務所の発展は、弁護士と事務局(秘書)という人材に支えられているわけですし、我々丁稚アソシエイトにとっては、数年後事務所に入ってきてもらって自分と一緒に業務を担当してもらう方には、「より良い」人材をと願う気持ちもありますので、いい加減な気持ちでこなすわけには行きません。眠い目をこすりながら頑張っています。
それはさておき、リクルート活動については、私自身以前、採用される側の立場で色々書いてきましたが(弁護士の就職活動および司法修習関係記事まとめ - 実験農場-Life is Fake-)、弁護士になってからのこの1年半ほどの間、採用する側の立場を体験しましたので、まとめてみようと思います。自分も若輩者で、まだ到底偉そうに「採用」等と言える立場でもなければ、リクルートにおいて責任ある立場にいるわけでもないので、このようなことを書く資格がないことは自覚していますが、それでも就職活動で悩んでいる後輩の方々の一助になれば幸甚です。なお、いつも書いていますが、以下は私の意見であって、所属する事務所(公開していませんが)の意見とは一切関係ありません。
1 採用の段階とその目的
一般的に、この時期の採用活動というのは以下のようなステップを経ることが多いのではないかと思います。
(1) 履歴書(エントリーシート)、成績表を事務所に提出
(2) 事務所での面接(集団・個別)
(3) 食事
これらの目的は私の理解では以下のとおりです。
まず、(1)は、一般的に募集すると到底面接できないくらいの数の応募が来るので、面接に進める方を選出する、悪い言い方をすればそれ以外の方を「足切り」するために行っています。
次に、(2)は、各事務所によるでしょうが、普通は面接という場面でのやり取りを通じて、コミュニケーション能力、説明力、思考力、マナー等を見るために行っています。
最後に、(3)は、(2)では見ることができないような能力や人格を見るために行っています。食事の場で一定時間一緒に過ごすことで、面接では見えなかったその方の能力や人格が見えてくるのです。
以下、各ステップごとに、これらの目的を前提にしてもう少し具体的な話を書いてみます。
2 (1)履歴書について
この2年で履歴書数百枚を読みましたが、感想を一言で言うと、「グッとくる履歴書は20枚に1枚くらいしかない」というところです。
前記のとおり、履歴書の目的は「足切り」です。そして、「足切り」の一番簡単な方法は、大学入試や司法試験のように、成績、つまりGPAと英語(TOEICやTOEFL)です。したがって、グッとくる履歴書がない場合、読み手としては、成績と英語で決めるしかないということになります。また、面接に呼んで結果がひどかったとしても、成績優秀者を読んでひどかったら仕方ない*1ということにもなりますので、読み手には常に成績での足切りをしたいという動機があることになります。
そうすると、「足切り」にかからないためには、「この人を呼んでみたい、話を聞いてみたい」と思えるような内容の履歴書を出すのがいいでしょう。特に、私のように成績がイマイチ*2な方ほどその努力をする必要があります。バレーボールで言うと、思わず読み手が打ちたくなるいいトスを上げるイメージです。それが何なのかは人によるでしょうが、奇をてらう必要はなく、自分の人生においてしっかり取り組んできたこと・それによって学んだことのエッセンスを記載するイメージです。(2)の面接では、履歴書をもとに質問がされますので、自分のセールスポイントやつっこんで欲しいネタ等を盛り込みましょう。
また、いいトスを上げるためには、トスの上げ方、つまり文章の書き方を工夫する必要があります。人によっては、綺麗に纏めることを履歴書の目的と勘違いしているのではないかというくらい、綺麗な・抽象的な言葉(「リーダーシップがある」「責任感が強い」「チャレンジ精神がある」等々)で埋め尽くされものを提出される方もいらっしゃいますが、そういうのはあまり意味がありません。むしろ、そのような抽象的な評価に繋がる前提事実を一定程度具体的に書く必要があります。
たとえば、同じリーダーシップという話を書くにしても、
「私は学生時代サッカーのサークルの代表をやっていて、メンバーをまとめていました。チームはバラバラでしたが、私のリーダーシップにより最終的には、●●といった成績を上げることができました。以上のことから、私には他人にはないリーダーシップがあると自負しており、これはチームプレイが求められる大規模M&A業務等において必ず有用であろうと信じております。」
というのと、
「私は学生時代、30人のサッカーサークルの代表を務めていましたが、任意参加のサークルという性格上メンバーの手助けを得るのは容易なことではありませんでした。しかし、グラウンドの確保やメンバーへの連絡等、ロジ周りを自主的に行い、メンバーに積極的に声掛けをするというように、自分で汗をかくことで、最終的にサークルのメンバーも協力してくれるようになりました。結果的にチームの力もアップして、●●といった成績を残すことができました。このように、私は、リーダーシップを発揮すべき場面で必要とされる能力を持っていると自負しております」
とでは、後者の方が課題の発見から解決方法、それによって得られたものといった過程がクリアーになっていていいでしょう。抽象的な内容だけ書かれても、読み手にはまったく伝わりませんので、最終的には中身がスカスカという評価を受けてしまいます。上の例で言うと、「リーダーシップ」という結論に至るまでの過程をきちんと書くという意味では、司法試験の答案みたいなもので、「あてはめ」をきちんと書かない履歴書は評価が低くなってしまいます。
なお、些末な話も若干しておきますと、誤字や変な日本語は読み手の心証を悪くします。また、意外に顔写真も心証に影響します。さらに、送り状等をきちんとつけているか、メール等のマナーがどうかといったことも、一応見ています。
当然ですが、それらだけで足切りするかどうかを決定することはありえませんが、誤字や変な日本語は、履歴書を読み直していないことが推察され、書き手の真剣さを疑いしめますし、顔写真の服装が私服だったり、髪の毛がぼさぼさだったりというのも、第一印象が悪いです。
そんなことで心証を悪くしても意味がないですし、少しの努力で修正できることですから、その辺りはさぼらないほうがいいのではないかと思います。
3 (2)事務所での面接について
おそらく面接は普通30分から1時間程度ではないかと思いますが、そこで見ているのは、主にコミュニケーション能力、思考力、マナーです。
一番わかりやすいマナーから言うと、これは言ってみれば減点要素で、2で書いた誤字のようなものです。これだけで評価が決まることはふつうないですが、一般的なマナーから外れたような方の採用は躊躇するように思います。また、これはマナーに属する話か微妙ですが、面接を受けるのは自分であるという立場を理解できていない態度を見せる方を採用することはあまりないように思います。
次に、コミュニケーション能力と説明力、思考力について、これらは説明しにくいものですが、あえて説明すると以下のようになるでしょうか。
コミュニケーション能力は、当方の発言の趣旨をきちんと理解し、きちんと趣旨を踏まえたレスポンスをできるかどうか。喩えて言えば、会話のキャッチボールがきちんとできるかということかと思います。面接でよく思うのは、当方の発言や質問の意味がわからないならわからないと素直に言ってもらえばいいのにということです。緊張するのは当然ですし、当方の評価も緊張状態にあることは前提にしていますので、あくまでも自然体で会話をするイメージで臨むのが良いのではないでしょうか。
説明力は、自分の言いたいことをきちんと当方にわかるように説明できるかどうか。自分の言いたいことが頭の中にあっても、それを第三者に理解してもらえるように伝えるのは思いのほか難しいものです。面接では、当方の質問に対し、とりあえず言いたいことを思うがままに喋り倒す方がいらっしゃったりしますが、面接というのは喋ればいいというものではありません。きちんと自分の伝えたいことを過不足なく相手に伝えるよう努力するのがいいでしょう。小学生にもわかるようにわかりやすく丁寧に伝えるのがポイントだろうと思います。また、自分が口がよく回ると思う方は、あえてセーブするように、口下手だと思う方は、ゆっくりでも順を追って、焦らず丁寧に説明するように心がけるといいのではないかと思います。自分は前者なので、ゆっくり・丁寧に話すことを心がけていました。
思考力は、こちらが問いかけた質問の趣旨をきちんと理解し、質問に対する回答を自分なりに思考してレスポンスできるかどうか。また、その思考過程でわからない前提事実等があれば、すぐに質問できるかどうか。このあたりはコミュニケーション能力と重複するように思いますが、面接では、当方の質問を理解できないまま急いで回答し、結果コミュニケーションがうまくいなかいというパターンに陥ることがあります。相手がいったい何を問いたいのかということを理解しようとし、いまいちわからなかったら失礼のないように聞き返すことが必要です。また、回答は、自分なりに考えて思うところを述べればいいのであって、それ以外は考えなくてよいかと思います。
実は、面接で見る以上の能力は、いずれも弁護士として必要不可欠な能力です。弁護士はサービス業ですから、クライアントと接する際にマナーを失してはいけませんし(マナー)、クライアントの相談内容を理解し(コミュニケーション能力)、相談内容を検討し(思考力)、結論を説明する(説明力)のは、弁護士として必要な基本的な能力です。面接では、弁護士として必要な基本的な能力(の素地)があるかどうかを見ています。
2同様、些末な話をしますと、履歴書に書いてあることをもとに質問をして話が盛り上がらないと、面接をする側はがくっときます。たとえば、履歴書に、ロースクール時代は事業再生のゼミに所属していて、興味のある法分野事業再生とある方に、事業再生の話を振ってみて、まったく話が盛り上がらないと、面接の場気まずい雰囲気になります。履歴書でプッシュした話は、突っ込まれてもある程度話ができるよう予習或いは復習しておくのがいいのではないでしょうか。
4 (3)食事について以上2で記した能力以外に、採用側として気になるのはその方の人格(平たく言うならキャラ)です。
(2)の面接で、一定程度の能力がある場合、最後にこの人格を見ようということになります。弁護士は、同僚弁護士とは家族以上に一緒に過ごすわけですから、仮に能力があっても、事務所の雰囲気と合わないと、相互に不幸なことになります。そこで、酒の席という少々くだけた雰囲気で、その方とお話して、人格を見てみようということになるのです。
ここでは、特に何をすればいいなんてことはありません。その事務所の雰囲気と合うかどうかはもはや運のようなものですから、普通に会食を楽しむしかないでしょう。無理に人格を装っても意味がありません。ただ、そういった場面であまり「素のキャラ」が見えないと採用に躊躇することになると思います。一方で、余りにはっちゃけすぎるのも考えものです(お酒は適量で!)。普通にふるまいましょう。
5 リクルート活動中の皆さまへ
以下、無用のことながら若干私の意見を述べます。
私はリクルートというのは、恋愛のようなものだと思っています。
採用する側も、採用される側も自分に合った相手を選びたくてやっています。ですから、採用される側は、自分の能力や人格をアピールすることに力を尽くすべきですし、採用する側も、相手の能力や人格を注意深く見るべきなのです。その上で、お互いに合った相手を見つけられれば、これ以上の事はないでしょう。
このような私の理解から言いたいことが二つありまして、一つは、リクルートは、内定を数取ればいいというものではありません。巷では、内定の取り方のような書籍が流行っているようですが、私の理解とは相いれません。恋愛と一緒で、モテればいいというものではなく、最終的には最高の相手を見つけるのが至上命題でしょう。モテ自慢ではなく、自分にとって最高の相手を選んだと自慢できるように、自分にとって最高の事務所を見つけるのがリクルートの目的です。リクルートの目的を見失わないようにしてください*3。
もう一つは、採用される側の方々には、「採用する事務所がどんなもんか見てやる」くらいの気持ちを持ってもらいたいと思います。弁護士にとって最初に入る事務所は、弁護士人生のスタートラインであり、以後の弁護士としてのキャリアの基礎を固めるために多大な影響を与えるものですから、どの事務所に入るかというのは、弁護士人生における重大な決断です。世間の評判など気にせずに、自分の目でその事務所を見て、自分にとってその事務所がどうかということをきちんと検討しましょう*4。さもなくば、入所した後「こんなはずではなかった」ということになり、事務所をすぐに退所してしまうということになりかねません*5。また、採用する側から見ても、少なくとも私は、そういった突っ込みをしてくれる方の方が、真剣にうちの事務所を見てくれていると理解します。
私の経験をお話しますと、私がリクルート活動をしていた際は、訪問した事務所について、以下の点を見ていました。
まず、アソシエイトは魅力的か。アソシエイトは、その事務所が将来をゆだねる人材である訳で、その人たちを自分が魅力的と感じられないとすれば、自分が入所後その人たちとうまくいかないだろうと思っていたからです。リクルートでは、若手アソシエイトが出てくることが多いので、その人たちを観察していました。
次に、パートナーとアソシエイトの関係はどうか。アソシエイトがパートナーの前で萎縮していて、アソシエイトがパートナーに物申せないような事務所には入りたくありませんでしたし、そういう事務所で我が強い自分がやっていけるとは到底思えなかったからです。パートナーとアソシエイトの関係を見抜くのは容易なことではありませんが、食事の場でのパートナーとアソシエイトとのやり取りや、パートナーがアソシエイトに指示を出す瞬間等から結構透けて見えます。
最後に、その事務所の雰囲気は自分にとって合うかどうか。自分が長い時間を過ごすであろう事務所が自分に合う事務所でなければ耐えられないであろうと思っていたからです。
私の場合、このような観察の末もっとも魅力を感じていた今の事務所にたまたま内定をもらうことができました。今になって思うと、最後の決め手は、業務内容でも給料でもなく、この人と働きたいと思えるアソシエイトがいたことと、それを含め、事務所の空気が自分に合うのではないかと思ったことでした。なお、リクルート活動中にアソシエイトだったその弁護士は、私が入所した時にはパートナーとなっており、現在私はその弁護士の案件にを複数アサインされていますが、非常に楽しく仕事ができています。逆に、その弁護士がいなければ、サマークラークのオファーを頂いていた中国法務の強い事務所に心が動いていたかもしれませんし、魅力的な先生方がいらっしゃる修習地の事務所に就職していたかもしれません。
以上のように、リクルートというのは最後は「縁」なのだろうと思っています。
弁護士人生においてリクルート活動は一度しかありませんが、その弁護士人生に及ぼす影響は多大です。
そのような重要な人生の局面において皆さまが良縁を掴みとれることを心よりお祈りしております。
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50万アクセス到達
そういえば、おかげさまで累計50万アクセスに到達しました。
ブログを初めて6年半ほど、いまいち誰が見ているのかよくわかりませんが、ありがとうございます。
知らないうちに2ちゃんで有名人になっていたり、なぜか中国の論文にブログが引用されていたり、はたまた某判事にちょくちょく引用されたりと、そういうこともありましたが、今後もマイペースに続けていきたいと思います。
なお、最近、もう弁護士になったんだから匿名やめたら?と言われることがありますが、もうしばらくは匿名で行こうと思っています。私自身、独立自営業者となった今、このブログを営業に利用したいという思いがないといえば嘘になりますが、いろんな理由でしばらくは匿名で行こうと思っています。そもそも、匿名とはいえ、私のことを実際に知っている方がこのブログを見れば、一瞬で特定されるような内容ですし、匿名の方が確保できる説得力というのもあると思うので、このままでいいだろうと。
前どこかで書きましたが、このブログを続けている理由は、受験や就職活動をしている方の一助となればという思いがあるからです。私自身受験だったり就職活動だったりといったときに、先輩のブログ記事を見て助けられたことがある一方、今となってみれば、当時自分が知っていれば…と思ったりすることがあります。
ですから、なんか聞きたいことがあればどっかに書き込んでいただければ答えられる範囲で回答します。たぶん。時間があれば。就職活動している当時、弁護士がどうやって事務所を経営しているのかとか、どういう仕事をしているのかなんてわからなかったからなあ。
ということで、皆様、今後ともよろしくお願いいたします。
503912
給費制廃止違憲訴訟についての若干の感想
先日の記事が某裁判官のFBに掲載され、気づいたら10日で1万アクセス。さすがです。
修習生の頃に某裁判官のFBに掲載されたことがありました。その際もアクセスがどっと増えたので、ご紹介いただいたお礼(?)に要件事実マニュアルの宣伝をしたような記憶です。
ということで、今回も宣伝しておきますが、弁護士になった今も、要件事実マニュアルは執務机に置いてあります。修習生の頃は、要件事実の勉強用にしていましたが、今では、法律相談を受け、訴訟になったときのことを踏まえて検討するにあたり、相手方の反論を取り急ぎ予想できて便利だなあと思っています。ただ、旧版のままで新しいのは買ってませんが…
そんな某裁判官のFBで給費制の話が書かれていて気づいたのですが、給費制廃止違憲訴訟の第一回口頭弁論が既に行われていたんですね*1。少し雑駁な感想を書きます。
給費制については、本ブログでもたびたび書いてきましたが、私の意見は、修習前から今に至るまで変わっていません。すなわち、法曹界(主に弁護士)にとって重要なのは給費制維持ではなく、弁護士を志す人々に、弁護士になった後食っていくのが大変で、貸与制の金を返せないこと、或いは返すのが難しいのではないかと思われている現状を何とかすることです。志望者が減れば、弁護士の質は下がります。また、金銭的に余裕がない人たちが弁護士を志望しなくなれば、弁護士の多様性は失われます。これは、弁護士のレピュテーションを低下させ、弁護士業に悪影響を与えるのみならず、弁護士が社会システムにとって一定の公的役割を果たしていることからすれば、社会にとっての損失でもあります*2。
修習中に貸与されるのは約300万円で、無利息・修習修了から5年後返済開始・10年払いです。これは、ふつうに働いていれば返せない額ではありません。そのような額をもって弁護士の夢をあきらめるのは、弁護士になった後ふつうに働いて食っていくのが大変だから、或いは大変と思われているからでしょう。法律家志望者が減っている最大の理由は、このような将来に対する漠とした不安であって、それを解決しないと、弁護士志望者は絶対に増えないでしょう。これこそが最大の問題であり、以前書いたように*3、法曹になるまでの負担としては、ロースクール及び修習開始までの費用もかなり大きいことからすれば、給費制復活によって懐事情がただちに改善するわけではありません。
給費制の復活を唱えることは一つの考え方として理解しますが、訴訟に勝てるとは思えません。弁護団にはベテラン弁護士の先生方が多く参加されていますから、そのことは理解されているでしょう。それでも訴訟を起こすというのは、国民に対するアピールとしての政治活動目的によるものだと思います。しかし、給費制復活を求めるというのは、いまだに特権階級と思われている法曹が金をくれくれ言っていると見られ、功を奏さないだろうとも思います*4。
また、このような訴訟によって、修習専念義務の廃止・緩和が推進されることも懸念しています。給費制を強硬に唱えることで、そちらの考えが推し進められ、修習の廃止や任意参加制へと突き進む可能性があるように思うのです*5。*6。修習という素晴らしい制度が廃止されるのは、私に言わせれば愚か以外の何物でなく、最悪な結論です。
結局、予算は限られており、法律家育成についてはロースクールが多額の予算を取っている以上、それに加えて修習生に給費を与えることはできないという話だと思いますので、ロースクールを廃止しない限りは変化は起きないでしょう。しかし、それはあまりにも非現実的です。ちなみに、弁護士会会長選挙では、ロースクール廃止を訴えた候補は負けています*7。
あと、以下はまさに感想ですけれども、こういう時によく出てくる「修習生貧困物語」みたいな話には違和感を感じます。本を買えずに回し読みしましたとか、借金の自虐ネタを言ってますとか聞きますが、貸与を受けていれば修習中に金銭が不足することはふつうないでしょう。これらも政治的目的のもと、わかりやすいストーリーを見せようとしているのでしょうが、手法としてあまり好きでになれません。後輩の皆さんに一つだけいうとすれば、そういうストーリーを気にして、修習資金を目的なく*8貯金するのは愚の骨頂だということです。修習中は、勉強のために金を惜しんではいけません。たとえば、修習生であれば、裁判官や検察官も、あまり警戒することなくいろいろ教えてくれます。少なくとも、法曹になるならば、裁判官や検察官との懇親会に金を気にして参加しないなんて愚の骨頂です。
最後に、こういう記事を書くと、だいたいツイッターやらで「恵まれた人はいいね」と書かれるので、以下予防線です。
私は法学部生の頃から司法試験の直前まで、ずっとアルバイトをして生活費を稼ぎ、親からの仕送りは学費だけでした。それでも東京での一人暮らしは金がかかるので、借りていた奨学金と修習での貸与金とで、借金は合計900万円あります。
また、今まで書いた記事で貸与制について関係するもののリンクを貼っておきます。
・修習生の懐事情について:修習にて思うこと(3)―修習と先立つもの - 実験農場-Life is Fake-
こちらの記事は、修習生の支出の変動要因を中心に、懐事情について書いています。
・修習時代の収支概要:修習にて思うこと(4)―いち修習生の家計簿公開 - 実験農場-Life is Fake-
こちらの記事は修習当時のもので、当時のリアルな思いを書いています。
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*2:そう思うのは自分が弁護士だからで、そう思われていないからこそ、給費制復活が支持を得られないのでしょうが。
*3:http://d.hatena.ne.jp/he_knows_my_name/20101007
*4:それでもやるのは、他に手だてがないのかもしれません。確かに、ロースクールを廃止しない限り、法曹志望者の懐事情は改善しないでしょうが、それが不可能である以上、せめて修習は給費制にしようというのは、一つの考え方として理解できます。
*5:http://kyuhi-sosyou.com/blog/?p=174
*6:労働契約との比較で言えば、専念義務がなくなれば給費制とする理由は弱くなると思います。
*7:http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140207/trl14020720440003-n1.htm
*8:たとえば、即独資金として貯蓄するというのはアリだと思っています。
弁護士を1年やっていてわかったこと
ご無沙汰しております。
弁護士になって以来、実質的な更新を全くしていなかったので、芸能界であればそろそろ死亡説も流れてもおかしくないですね。しかし、おかげさまで生きています。
都内の企業法務を主に扱っている中堅(?)事務所*1でなんとか一年やりきり、二年目に入りました。
知っているだけで同期数人が既に事務所を変えていることからすれば、ずいぶん恵まれているなあと実感しています。
業務内容は、私個人は紛争寄りで、一年で40件程度の交渉・仮処分・訴訟を担当しました。内容は、やからとの交渉や債権回収から、裁判例が固まっていないややこしい分野の訴訟までとかなり幅広です。また、紛争以外にも、契約書レビューや企業の日常相談、デューディリジェンスを中心とするMA案件、コンプラ案件、再生案件等も担当しています。さらに、弁護士会の研修ではありますが、刑事事件も2件担当しました。そういう意味では、同期の中でも、多岐にわたる経験ができたほうなのではないかと思います。もちろん、裏を返せば、それは専門性の浅さにつながるのですが…
とにかく、この一年は、企業法務を扱う中堅事務所のよさである、幅広く色んな経験ができるというメリットを大きく享受できたのではないかというところです。
一方で、日々の業務の忙しさにかまけて、経験したことの抽象化・帰納がまったくできなかったことが最大の反省点でしょうか。また、業務外での趣味や社交にいまいち時間がさけなかったのも残念です。
さて、曲がりなりにも一年間弁護士をやってきて、気づいたことがそれなりにあります。
上に述べた通り、この一年、それらを抽象化・帰納する機会がなかったので、ここでまとめてやってみようと思います。
■キャリアの長さ≠能力
勤務を始めて衝撃を受けたのが、訴訟の相手方の書面の仕事としての完成度の低さでした。そして、それは明らかに、事実関係や法令の十分なリサーチが足りていないゆえでした。しかも、これは、キャリアの長短や準備期間の長短にかかわりなく、完成度が低い弁護士は、いつも完成度が低いのです。おそらくそのような弁護士は、勤務を開始して数年の間、きちんとした指導を受けなかったか、(意識しているかどうかは別にして、)適当に仕事をしてきたのでしょう。また、キャリア開始数年できちんとした書面が書けるようにならないと、おそらくもう改善の見込みはないということでもあるのだろうと思います。
■日々の業務の忙しさにかまけると成長はない
私の昨年一年の勤務率*2は、おおむね43%でした。これは、やってる身としては、結構忙しい印象でした*3。そして、ある程度忙しいと、ある種の満足感ともいうべ、「やった感」を感じるようになります。また、周囲も、「○○先生頑張ってるね」と一応評価してくれます。しかし、これが危険です。弁護士は、知識を武器に戦うわけですから、業務を行うだけではなく、知識を身に着けなければなりません。特に、企業法務に携わる弁護士にとって、クライアントのために知らなくていいという法律はあまりないはずですから、絶対に勉強を続けなければなりません。日々の業務には励みつつ、勉強を怠ると、一応の腕はあるが、知識がなく、経験とそれによって得たもの(場当たり的なハッタリや交渉力)しか武器がない弁護士になってしまうでしょう。
■弁護士=プロである・独立自営業者である
弁護士は、一年目でも四十年目でも、同様にプロです。一年目は実質的にお目こぼしやハンデをもらえたりしますが、それに甘んじているようではダメでしょう。気持ちの上では、謙虚さを忘れてはいけませんが、パートナーや先輩アソシエイトとも対等であるという意識を持ち、その裏返しとして対等の責任感を持たなければなりません。パートナーのクライアントであっても、自分のクライアントだと思って接すべきですし、それが期待されるのがプロとしての弁護士であると思います。
また、プロは仕事をやるからプロなのであり、その唯一の義務は仕事をきちんとやることです。一応上ではいい経験ができたなんて書いていますが、それはあくまでも副次的・結果的なもので、仕事は自分の成長や経験のためにやるものではありません。リクルートの面接ではそのような発言をしていてもいいでしょうが、プロになったらそんな気持ちは捨てて、クライアントのため仕事をすることに専念すべきでしょう。
少し話は変わりますが、リクルートをやっていると、「寄らば大樹の陰」と思って大規模・中規模事務所に来る人がいます。しかし、弁護士は、どこにいても*4独立自営業者であることを理解しなければなりません。大規模・中規模事務所でパートナーになるか、或いは事務所を出て独立するか、いずれにせよ独立自営業者なのですから、いつかはサラリーマンを卒業し、自分の腕一つで喰っていかねばなりません。そのような覚悟・意識を持っていれば、「寄らば大樹の陰」なんて考えは湧いてこないでしょう。また、入所後も、「いい仕事」*5をしようという意識が先行するはずで、パートナーやボスに阿ろうなんて意識は湧かないはずです*6。いずれにせよ、弁護士は、クライアントの信頼を勝ち取れるいっぱしの弁護士になれなければ、喰っていけないわけです。
■弁護士事務所のビジネスモデル
以下は、パートナー弁護士(経営に参画し経費負担をし、主に仕事を取ってくる弁護士)とアソシエイト弁護士(サラリーマンで、パートナーの仕事を下請けする弁護士)によって構成されている弁護士事務所を想定します。
弁護士事務所の経費は、アソシエイトが労働者ではなく、残業代が発生しないため、人件費含め、ほとんどが固定費と思われます*7。すると、弁護士事務所での生産量を高めるには、パートナーの生産量(仕事をたくさん取る)と、アソシエイトの生産量(仕事をたくさんこなす)を上げるべきということになります。
生産量=生産効率×生産に掛ける時間という理解を前提とすると、アソシエイトが生産量を上げるには、生産効率と生産に掛ける時間を上げるほかありません。このことから、弁護士事務所でありがちなアソシエイトな長時間労働という事態が生まれます*8。また、パートナーは、自らの生産量を上げるため、言い換えれば、アソシエイトには担当できないパートナーとしての業務(仕事を取ること*9)に集中するため、なるべくアソシエイトができるような業務は担当しないという方針を取ります。
■弁護士業務の次元
乱暴に弁護士業務の段階を分けると、以下のようになります*10。
1 仕事を獲得する
2 仕事の分担やスケジュールを決めて、適宜指揮をする
3 仕事の問題点を発見する
4 仕事の問題点を解決する
訴訟の例で言うと以下のようになります。
1 訴訟を受任する
2 複数の弁護士の間で、訴訟物ごとに担当を分け、取りまとめをする
3 当該訴訟物の要件事実ごとに問題点を発見する
4 必要な事実聞き取り、資料収集、法令リサーチをし、主張を構成し証拠を作成する
■評価されるアソシエイトとは
以上のビジネスモデルを前提とすれば*11、評価されるアソシエイトがどのようなものかというのは簡単にわかります。
まず、アソシエイトとしての生産量が大きい人です。これは、上記のとおり、生産効率か、生産に掛ける時間をたくさん取るかしかありませんから、いわゆる仕事ができる人、或いはモーレツ社員のような人ということになります。もちろん、生産効率が高く、かつ、生産にかける時間が長い人が最も評価されることは言うまでもありませんが、両立は容易なことではないでしょう。
次に、パートナーの生産性向上に貢献できる人です。アソシエイトが、パートナーの生産効率向上を手助けするのは困難ですから、これは、パートナーが生産に掛ける時間を確保できるようにする人ということになります。わかりやすく言うと、パートナーが最低限のチェックさえすればいいという程度まで仕事を完成させてくれる人です。
■無難な結論=結局仕事を「回せる」かどうかが大事
以上を前提とすると、アソシエイトとして大事な能力を一言で言うならば、仕事を「回す」能力です。
これには二つの含意があります。
一つは、自分に与えられたタスクを納期内に完成させる能力。この能力の内訳は、そのタスクを完成させる基礎的な能力、そのタスクを完成させるために必要な時間を見積もる能力、その時間を確保する能力(タイムマネイジメント能力)です。これは、上記の業務の段階でいうと、3や4をなるべく早く・高いクオリティで完成させる能力です。
二つは、仕事全体を見渡し、アソシエイト間で適宜分担し、効率よく仕事を完成させる能力。これは、3や4を自ら完成させるのみならず、2まで達成できる、言いかえれば他のアソシエイトが3や4をどこまで実行できているか等に目配りしつつ、クライアントやパートナーとの調整を行い、最終的にパートナーのチェックを残すところまで仕事を完成させられる能力です。
■結局どうすればいいの?
語弊があるのですが、「自分の事務所のパートナーやボスは法律が苦手で超めんどくさがり屋だ」と思って仕事をすることだと思います。つまり、自分ができるだけ頑張って、パートナーがちょっと見ればOKといえる段階まで仕事をやるということです。この段階まで仕事をやる癖がつけば、必然的に、そのような仕事をするための基礎的能力や、タイムマネイジメント能力は付いてくるはずです。
抽象的なので、一例を挙げると、お客さんから相談内容を記載し、資料が添付されたメールが送られてきたとします。ここで、資料を検討して、自分で一定の結論を得たとします。そこで、パートナーに報告メールを送るわけですが、パートナーに一番ありがたいのはどういうメールでしょうか?おそらく、メールの文面さえ読めば、「事案の概要」「関連法令の概要」「結論」がわかるメールでしょう。逆に、「結論」しか書いていなかったらどうでしょう。パートナーはいちいち資料を一から読み、関連法令を一から調べなければいけなくなります。どちらがパートナーの生産量を上げるのに貢献するかは一見して明らかです*12。
こういうことを書くと、いかにもパートナーの機嫌取りで、口さがない方からは「大きな事務所は大変ね」と言われてしまいそうですが、これが事務所にとって最も合理的な行動ということになります。
その上、普段からそういったことを意識して仕事をすれば、アソシエイトにとってもプラスがあります。他人に簡潔に報告するというのは、事案や法令をきちんと理解していなければできないことですから、仕事をきちんとやるようになるのはもちろん、法令の理解や、業務遂行力の成長にもつながります。
以上、二年目のお前が言うか?という内容ではありますが、僭越ながら書いてみました。また、言うまでもないことですが、言うとやるとでは大違いです。上の内容を自分が実践できているかというと、穴があったら…というところです。そして、このブログは基本的に恥を「書き捨てる」という姿勢のもと運営されていますので、お許しください*13。
(とはいえ、特に一年目の弁護士の方なんかに参考にしていただければ幸甚です。)
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*1:地方で修習していた私からすれば、弊所は大規模事務所以外の何物でもないのですが、四大法律事務所を念頭に置いている方からは中堅と呼ばれることが多いです。
*2:造語です。一定期間の時間に対し、勤務をしていた時間の比率を指します。
*3:余談ですが、私の場合、月の勤務率が50%(月労働時間360時間)を超えると、急激に仕事に対するモチベーションが落ちます。
*4:むしろ、大規模事務所の方が経費は高くなるので、逆に喰っていくのは大変でしょう。
*5:これがいったいどういうものなのかというのは、あと20年くらいすれば私もわかるようになっているかもしれません。しかし、少なくとも主観的に「ベストを尽くす」ことは必要条件であろうと思っています。
*6:一般的に、大規模事務所や中規模事務所には一定数存在するようです。
*7:私はアソシエイトなので実際のところは知りえません。
*8:これは、ビジネスモデルから必然的に帰結するという趣旨です。実際は、私含め仕事好きな人が多いとか、いろんな理由があると思います。
*9:これも、アソシエイトが仕事を取ることがないわけではないので、例外がある話ではあります。
*10:実際の感覚からすると、2と3は段階的というよりある程度同時並行的であるように思います。
*11:当たり前ですが、アソシエイトも弁護士業務をこなす能力のみで評価されるわけではありません。下っ端のうちは雑務もやらなければなりませんし、事務局とタッグを組めるかどうかといった能力も重要です。とはいえ、これらの能力も結局生産効率に関わってくるもののように思うところですが。
*12:なお、パートナーもその内容に違和感があったり、リサーチに不安がある若手が作成したメールであったりすれば、自ら確認するのが通常ですので、その点を心配する必要はありません。
*13:しばらく経ってこの記事を読み、まだまだだったなあと思えるようになっていたいものです。
城巡りの記録
現在104カ城
<2009年> 2カ城
9月
<2010年> 35カ城
2月
3月
海津(松代)城(長野県長野市)
4月
稲村城(千葉県館山市)
館山城(千葉県館山市)
5月
足利氏館(栃木県足利市)
相模台城(千葉県松戸市)
6月
臼井城(千葉県佐倉市)
8月
9月
諏訪高島城(長野県諏訪市)
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篠山(久留米)城(福岡県久留米市)
<2011年> 13カ城
7月
8月
9月
<2012年> 35カ城
1月
2月
3月
飫肥城(宮崎県日南市)
鹿児島城(鹿児島県鹿児島市)
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5月
6月
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唐沢山城(栃木県佐野市)
佐野城(栃木県佐野市)
10月
11月
12月
8月
岩屋城(福岡県大野城市)
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八王子城(東京都八王子市)
12月
宇和島城(愛媛県宇和島市)
大洲城(愛媛県大洲市)
臼杵城(大分県臼杵市)
府内城(大分県大分市)
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