埼玉県虐待禁止条例改正案について

今話題の、埼玉県虐待禁止条例の改正案について、少し調べてみました。報道では、子どもを留守番させる=放置=虐待=通報とされることもありますが、改正案を見る限りは、放置=虐待とはなっておらず、放置すると直ちに虐待に該当するわけではなさそうです。ただ、放置概念が広範すぎる点は明らかに問題で、批判されてもやむなしかと思います。また、条例案を提出した自民党の県議団団長が、放置は虐待に当たると明言したことで、放置=虐待という理解がされ、批判が大きくなっているようにも思います。

■概要

埼玉県虐待禁止条例は、平成29年に制定された埼玉県の条例(平成二十九年七月十一日条例第二十六号)です。平成30年4月1日に施工されています。議員提案政策条例であり、埼玉県議会自由民主党議員団でプロジェクトチームを立ち上げ、ヒアリングを行い、パブリックコメントを経て条例案が作成されています。

当時、自治体法務研究において、同プロジェクトチームの会長と事務局長を著者とする記事(以下「本件記事」といいます。)により解説がなされているほか*1、埼玉県虐待禁止条例の逐条解説(未定稿)*2(以下「本件コンメ」といいます。)というのもあります。なお、「未定稿」とありますが、インターネット上では、これが最終版の逐条解説であるという記載もありました*3

 

■現行の埼玉県虐待禁止条例

現行の埼玉県虐待禁止条例(以下「現行条例」といいます。)は、全25条で、本件記事にも言及のある通り、①虐待の防止、②虐待の早期発見・早期対応、③児童等への援助、④人材育成等について規定します。現行条例で対象とされているのは、児童だけでなく、高齢者や障害者も含まれており、条文上、「児童等」というのは、児童、高齢者及び障害者を含むとされています。ただし、今回は児童に関する規定が注目されているので、本稿も児童のみについて述べます。

まず、現行条例では、児童に対する虐待とは、以下のように定義されています(現行条例2条1号)。虐待の範囲は、国の法律より広くなっています。

イ 国の法律である児童虐待防止法に規定される虐待行為

なお、児童虐待防止法に規定される児童虐待とは以下の通り、保護者が監護する児童に対してする、暴行、わいせつ行為、顕著なネグレクト、極端な暴言やDV等とされており、これらは現行条例の虐待に含まれます。

児童虐待の定義)

第二条 この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。

一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。

二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。

三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。

四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

 

ロ 養護者又は児童等の親族が当該児童等の財産を不当に処分することその他当該児童等から不当に財産上の利益を得ること。

ハ 施設等養護者が児童等を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。

ニ 使用者である養護者がその使用する児童等について行う心身の正常な発達を妨げ、若しくは衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、その使用する他の労働者によるイに掲げる行為と同様の行為の放置その他これらに準ずる行為を行うこと。

また、児童とは、十八歳未満の者をいい(現行条例2条2号)、養護者とは、児童等を現に養護する者をいいます(現行条例2条5号)。

次に、現行条例は「養護者」について、「施設等養護者」「使用者である養護者」と、それ以外の養護者を区別して義務を定めています。これは、プロとアマチュアの区別を前提にした使い分けです。すなわち、子どもの面倒を見ている親は、多くの場合、「施設等養護者」でも「使用者である養護者」でもない養護者(以下「アマ養護者」といいます。)に当たるということになりそうです。

これに対し、「施設等養護者」は、児童福祉施設や学校を含みます。「使用者である養護者」は明確な定義はないですが、本件コンメによれば、使用者とは、児童の雇用主又は同僚を指すとされています。したがって、「施設等養護者」「使用者である養護者」はプロ養護者ということになりそうです。

 

■現行条例の養護者や埼玉県民が負う義務・責務

現行条例において養護者がどんな義務・責務を負うかですが、以下の通りです。

1 児童等に対して虐待をしてはならない責務(現行条例5条1項)

2 自らが児童等の安全の確保について重要な責任を有していることを認識し、県、市町村及び関係団体による支援を受ける等して、その養護する児童等が安全に安心して暮らすことができるようにする責務(現行条例5条2項)

3 アマ養護者について、養護する児童等の安全の確保について配慮する義務(現行条例6条1項)

4 プロ養護者について、養護する児童等の安全の確保について専門的な配慮をする義務(現行条例6条2項)

5 深夜(午後11時から翌午前4時)に児童を外出させないよう努める義務(現行条例6条3項)

また、これに加えて、埼玉県民は、以下の努力義務を負います。

6 基本理念についての理解を深め、県民と児童等及びその養護者との交流が虐待の防止等において重要な役割を果たすことを認識し、虐待のない地域づくりのために積極的な役割を果たすよう努めるとともに、県及び市町村が実施する虐待の防止等に関する施策に協力するよう努めるものとする(8条)。

これ以外には、アマ養護者・プロ養護者や県民が負う義務の規定はなく、残りは県や関係団体に対して義務を課す条文です。たとえば、虐待予防の取組義務(現行条例9条)、虐待を受けた・虐待を受けたと思われる児童等を発見した者にとって通告又は通報を行いやすい環境整備の努力義務(現行条例13条1項)や、県と児童相談所、警察署、市町村、関係団体との虐待に関する情報共有促進義務(現行条例14条1項)、児童の福祉に関する事務に従事する者に対する研修を実施する義務(現行条例19条1項)、発生した重大な虐待等について県が検証を行う義務(現行条例22条)など、たくさんの義務が規定されています。

以上からすると、養護者が負う義務としては345であり、加えて、養護者は12の責務を、県民は6の努力義務を負うということになります。全体として、県の虐待防止の努力を求めつつ、養護者や県民に対して、国の法律より広い範囲で虐待を定義して、そのような事態にならないよう児童の安全に配慮を求めるものです。

 

■今回の条例改正案審議の経緯等について

さて、2023年10月になってウェブ上の全国ニュースで話題になっている条例改正案(以下「本改正案」といいます。)についてです。報道によれば、埼玉県議会福祉保健医療委員会は、2023年10月6日、自民党県議団が提出した条例改正案を賛成多数で解決したとのことです。この改正案に対して、幅広い家庭が条例違反になりかねないとして、無所属県民会議が9歳以下に対しても努力義務とする修正案を提出し、民主フォーラムが継続審議を求めたが、否決されたとのことです。また、自由民主党埼玉県議団団長の田村琢実氏(以下「田村氏」といいます。)は、「罰則規定を今後検討するかについて、「あまりにも子どもの放置事例が出てくれば再考する必要がある。まず(放置は虐待という)認識を広めることに重きを置いている。(3年生以下の線引きは)学童保育の現状を含め、広域行政のバックアップを想定して決定している」と考えを示した。」とのことです*4*5。10月13日の本会議で成立する見通しで、現状の改正案通り成立すれば、2024年4月1日から施行されることになります。

改正案の内容は、埼玉県のウェブサイト*6で確認できます。これによると、52名の埼玉県議会議員が、2023年10月4日に提出したとされ、提出理由は「児童が放置されることにより危険な状況に置かれることを防止するため、児童を現に養護する者は、当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置をしてはならない旨を定めるなどをしたいので、この案を提出するものである。」とされています。

埼玉県議会自由民主党議員団のウェブサイト*7を見ると、2023年6月、7月、9月、10月に、埼玉県虐待禁止条例の一部改正検討プロジェクトチームが開催されているようです。2023年には少なくとも他に開催の広報はされていませんでした。

福祉保健医療委員会は、定数12で、メンバーは以下の通りです*8

 

 

正副委員長

議席番号

氏名

会派名

委員長 

37

渡辺大

自民

副委員長

23

柿沼貴志

自民

 

4

渡辺聡一郎

自民

 

25

戸野部直乃

公明

 

27

小川寿士

民主フォーラム

 

29

城下のり子

共産党

 

31

八子朋弘

県民

 

48

木下博信

自民

 

61

辻浩司

民主フォーラム

 

64

日下部伸三

自民

 

65

小久保憲一

自民

 

89

小谷野五雄

自民

 

■改正の内容

では、問題視されている改正案はいかなるものかについて、以下に改正前後の比較表(新旧対照表)にて整理します。

現行

改正案

(新設)

 

第六条の二 児童(九歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるものに限る。)を現に養護する者は、当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置をしてはならない。

2 児童(九歳に達する日以後の最初の三月三十一日を経過した児童であって、十二

歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるものに限る。)を現に養護する者は、当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置(虐

待に該当するものを除く。)をしないように努めなければならない。

3 県は、市町村と連携し、待機児童(

保育所における保育を行うことの申込みを行った保護者の当該申込みに係る児童であって保育所における保育が行われていないものをいう。)に関する問題を解消するための施策その他の児童の放置の防止に資する施策を講ずるものとする。

 

(県民の役割)

第八条 県民は、基本理念についての理解を深め、県民と児童等及びその養護者との交流が虐待の防止等において重要な役割を果たすことを認識し、虐待のない地域づくりのために積極的な役割を果たすよう努めるとともに、県及び市町村が実施する虐待の防止等に関する施策に協力するよう努めるものとする。

 

(県民の役割)

第八条 県民は、基本理念についての理解を深め、県民と児童等及びその養護者との交流が虐待の防止等において重要な役割を果たすことを認識し、虐待のない地域づくりのために積極的な役割を果たすよう努めるとともに、県及び市町村が実施する虐待の防止等に関する施策に協力するよう努めるものとする。

2 県民は、虐待を受けた児童等(虐待を受けたと思われる児童等を含む。第十三条及び第十五条において同じ。)を発見した場合は、速やかに通告又は通報をしなければならない。

 

十三条 県は、早期に虐待を発見することができるよう、市町村と連携し、虐待を受けた児童等(虐待を受けたと思われる児童等を含む。以下この条及び第十五条において同じ。)を発見した者にとって通告又は通報を行いやすい環境、虐待を受けた児童等にとって届出を行いやすい環境及び虐待を受けた児童等の家族その他の関係者にとって相談を行いやすい環境の整備に努めなければならない。

2 県は、市町村と連携し、虐待を受けた児童等に係る通告、通報及び届出を常時受けることができる環境の整備に努めなければならない。

3 県は、虐待を受けた児童等に係る通告、通報、届出又は相談を行った者に不利益が生ずることがないよう、その保護について必要な配慮をしなければならない。

 

十三条 県は、早期に虐待を発見することができるよう、市町村と連携し、虐待を受けた児童等を発見した者にとって通告又は通報を行いやすい環境、虐待を受けた児童等にとって届出を行いやすい環境及び虐待を受けた児童等の家族その他の関係者にとって相談を行いやすい環境の整備に努めなければならない。

2 県は、市町村と連携し、虐待を受けた児童等に係る通告、通報及び届出を常時受けることができる環境の整備に努めなければならない。

3 県は、虐待を受けた児童等に係る通告、通報、届出又は相談を行った者に不利益が生ずることがないよう、その保護について必要な配慮をしなければならない。

 

 

今回の改正の要点は以下の通りです。

1 小学3年生以下の児童を現に養護する者は、その児童を住居等に残したまま外出してはならない義務を負う(本改正案6条の2第1項)。

2 小学4年生以上小学6年生以下の児童を現に養護する者は、その児童を住居等に残したまま外出してはならない努力義務を負う(本改正案6条の2第2項)。

3 県は、待機児童に関する問題を解消するための施策その他の児童の放置の防止に資する施策を講ずる(本改正案6条の2第3項)。

4 県民は、虐待を受けた児童等を発見した場合は、児童福祉法上の通告をしなければならない(本改正案8条2項)。

以下では、12で課されている義務を「放置禁止義務」(2は1と違って努力義務ですが、義務の内容自体は同じなので、このようにまとめます。)、4で課されている義務を「通告義務」といいます。

 

■本改正案に対する感想

ここからは本改正案に対する感想です。

  • 全体的に、現行条例とのトーンの差が大きいように感じます。現行条例は、基本的に養護者や県民に対する義務は最低限のものとしていたのに対し、本改正案は、現に児童を養護する者に対して義務や努力義務を課し、県民に通告義務を課しています。たとえば、現行条例では、安全配慮義務の具体化として、児童の安全を確保するために深夜外出をさせない努力義務が課されており(現行条例6条3項)、これは児童の安全を確保できない深夜外出を防ぐ努力をせよ・努力をしなければ条例違反となる、というレベルでした。それに対し、本改正案では、放置禁止義務に違反した瞬間、条例違反になります。特に、小学3年生以下の児童については、努力義務ですらないので、住居等に残して外出しただけで条例違反になります。このような行為を条例違反と評価することで、虐待の発生を防ぎたいということでしょうが、それは努力義務や、児童の安全を確保できない外出のみを制限すれば足りると思われ、合理的理由が見出しがたく感じます。
  • 3は、待機児童、つまり就学前児童についての施策であり、小学生には関係がないと思います。そのため、この条文を、本改正案6条の2に入れたのは、その意図はないにせよ、法文としては唐突感が強く、いかにも言い訳のように感じます。待機児童の問題は解消の方向に向かっており、埼玉県の待機児童は、平成30年の1552人に対し、令和5年は347人です*9。入所申込者数は増加しているとのことですので、今後も解消の努力はすべきでしょうが、本改正案が施行されると、放置禁止義務が生じるので、これまで保育所に入る必要がなかった児童を保育所に入れるべきとなり、ニーズが増えることを想定しているのでしょうか。また、小学生については、保育所ではなく学童等の整備が必要になると思われますが、埼玉の学童待機児童の数は相当多いようです*10。報道によれば、田村氏は、3年生以下の線引きは、学童保育の現状を含め、広域行政のバックアップを想定して決定していると述べているようですが、それと条文の関係が理解し難く思います。こういった理由から、3については制定の理由が分かりかねます。
  • 4は、現行条例上の虐待を受けた児童等を発見したときに、児童福祉法児童虐待防止法上の通告をせよというものです。児童福祉法上の通告は、要保護児童(保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童)を発見した者に、通告義務を課すものです(児童福祉法25条、6条の3第8項)。また、児童虐待防止法上の通告は、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者に対し通告義務を課すものです(児童虐待防止法6条1項)。ここで留意すべきは、現行条例上の「虐待」の範囲が児童虐待防止法上の虐待より広いことです。つまり、県民は、児童虐待防止法より重い義務を負うことになります。
  • 報道によれば、田村氏は「放置は虐待である」という発言もされたようです。しかし、本改正案を見る限り、放置禁止義務違反は、ただちに虐待になるわけではなく、虐待の定義に含まれる「児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置」(現行条例2条1号イ、児童虐待防止法2条1項3号)に該当する場合に虐待になるということかと思います。一方で、本改正案6条の2第2項の「当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置(虐待に該当するものを除く。)」という記載からすると、放置禁止義務が虐待に該当しうることも前提にされているようです。
  • 報道によれば、田村氏は、罰則規定については、「あまりにも子どもの放置事例が出てくれば再考する」と述べたようです。これは、通告義務の罰則に言及するものかと思いますが、児童虐待防止法上、通告義務違反に罰則はないと思いますので、流石に行き過ぎではないかと思います。

法的に見たときのこの条例の問題点としては、(i)放置の概念が広すぎること、(ii)放置禁止義務において、禁止される放置が、生命身体に危険が及びうる場合等によって絞り込まれていないこと、(iii)努力義務になっていないことがあるように思います。実際に、著しく危険な放置を禁止するのはいいとしても、放置の定義が過度に広範で曖昧という批判がされていますが、これは全く妥当だと思います。

また、想定される問題となる場面としては、子どもだけでの外出や公園で遊ぶことや、子どもだけでの下校(学校から学童への移動も含む)、留守番といったことがあろうかと思います。本改正案では、これらが条例違反になる可能性は否定できません。これらの行為が制限されることで得られるメリットが、本改正案を念頭に対応をする必要がある学校や学童等の現場の負担が増えるデメリット(ひいてはそれは保護者や納税者としての国民に跳ね返ること)に見合うのかよく分かりません。また、田村氏の発言も踏まえると、本改正案は、留守番を許容せず、学童や保育所の利用を促進したいと考える必要がありそうですが、福祉予算を増やす方向の施策が現在の日本にマッチするのかというのも疑問です。

いずれにせよ、理念には共感できる部分はあるものの、ワーディングに大いに問題がある条例であり、報道されているような懸念が様々な方向から示されるのは至極当然というように思います。たとえば、放置については、ある程度範囲を絞ったうえで、安全配慮義務の一類型として、現行条例6条3項の深夜外出防止の努力義務と同じように規定すればよかったのではないでしょうか。

 

■現行条例

埼玉県虐待禁止条例

平成二十九年七月十一日
条例第二十六号

埼玉県虐待禁止条例をここに公布する。

埼玉県虐待禁止条例

 

目次

第一章 総則(第一条―第八条)

第二章 虐待の予防(第九条―第十二条)

第三章 虐待の早期発見及び虐待への早期対応(第十三条―第十五条)

第四章 児童等に対する援助等(第十六条・第十七条)

第五章 人材の育成等(第十八条―第二十二条)

第六章 雑則(第二十三条―第二十五条)

附則

 

第一章 総則

(目的)

第一条 この条例は、児童、高齢者及び障害者(以下「児童等」という。)に対する虐待の禁止並びに虐待の予防及び早期発見その他の虐待の防止等(以下「虐待の防止等」という。)に関し、基本理念を定め、県及び養護者の責務並びに関係団体及び県民の役割を明らかにするとともに、虐待の防止等に関する施策についての基本となる事項を定めることにより、当該施策を総合的かつ計画的に推進し、もって児童等の権利利益の養護に資することを目的とする。

 

(定義)

第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 虐待 次のいずれかに該当する行為をいう。

イ 養護者がその養護する児童等について行う児童虐待の防止等に関する法律(平成十二年法律第八十二号。以下「児童虐待防止法」という。)第二条各号、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成十七年法律第百二十四号。以下「高齢者虐待防止法」という。)第二条第四項第一号及び障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(平成二十三年法律第七十九号。以下「障害者虐待防止法」という。)第二条第六項第一号に掲げる行為

ロ 養護者又は児童等の親族が当該児童等の財産を不当に処分することその他当該児童等から不当に財産上の利益を得ること。

ハ 施設等養護者が児童等を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。

ニ 使用者である養護者がその使用する児童等について行う心身の正常な発達を妨げ、若しくは衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、その使用する他の労働者によるイに掲げる行為と同様の行為の放置その他これらに準ずる行為を行うこと。

二 児童 児童虐待防止法第二条の児童をいう。

三 高齢者 高齢者虐待防止法第二条第一項の高齢者(同条第六項の規定により高齢者とみなされる者を含む。)をいう。

四 障害者 障害者虐待防止法第二条第一項の障害者をいう。

五 養護者 児童等を現に養護する者をいう。

六 施設等養護者 養護者のうち、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第七条第一項の児童福祉施設(次号において「児童福祉施設」という。)その他の知事が告示で定める施設又は事業(第十九条において「児童福祉施設等」という。)に係る業務に従事する者、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条の学校、同法第百二十四条の専修学校及び同法第百三十四条第一項の各種学校(これらのうち児童が在籍しているものに限る。以下「学校」という。)の教職員、高齢者虐待防止法第二条第二項の養介護施設従事者等(第二十条において「養介護施設従事者等」という。)、障害者虐待防止法第二条第四項の障害者福祉施設従事者等(第二十一条において「障害者福祉施設従事者等」という。)並びに医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第一条の五第一項の病院及び同条第二項の診療所(患者を入院させるための施設を有するものに限る。)(次号において「病院等」という。)の医師、看護師その他の従業者をいう。

七 関係団体 児童福祉施設、学校、高齢者虐待防止法第二条第五項第一号の養介護施設(第二十条第二項において「養介護施設」という。)、障害者虐待防止法第二条第四項の障害者福祉施設(第二十一条第二項において「障害者福祉施設」という。)、病院等その他児童等の福祉に業務上関係のある団体をいう。

八 通告 児童福祉法第二十五条第一項及び第三十三条の十二第一項並びに児童虐待防止法第六条第一項の規定による通告をいう。

九 通報 高齢者虐待防止法第七条第一項及び第二項並びに第二十一条第一項から第三項までの規定並びに障害者虐待防止法第七条第一項、第十六条第一項及び第二十二条第一項の規定による通報をいう。

十 届出 児童福祉法第三十三条の十二第三項、高齢者虐待防止法第九条第一項及び第二十一条第四項並びに障害者虐待防止法第九条第一項、第十六条第二項及び第二十二条第二項の規定による届出をいう。

 

(基本理念)

第三条 虐待は、児童等の人権を著しく侵害するものであって、いかなる理由があっても禁止されるものであることを深く認識し、その防止等に取り組まなければならない。

2 虐待の防止等は、特定の個人又は家族の問題にとどまるものではないことから、社会全体の問題として、県、県民、市町村、関係団体等の地域の多様な主体が相互に連携を図りながら取り組まなければならない。

3 虐待の防止等に関する施策の実施に当たっては、児童等の生命を守ることを最も優先し、児童等の最善の利益を最大限に考慮しなければならない。

4 養護者(施設等養護者及び使用者である養護者を除く。以下この項において同じ。)に対する支援は、それが虐待の予防に資するものであることに鑑み、養護者が虐待を行うおそれがないと認められるまで切れ目なく行われなければならない。

 

(県の責務)

第四条 県は、前条の基本理念(第七条第二項及び第八条において「基本理念」という。)にのっとり、虐待の防止等に関する施策を策定し、及びこれを実施するとともに、必要な体制を整備するものとする。

2 県は、市町村に対し、福祉、保健、教育等に関する業務を担当する部局の相互の連携を強化し、児童等を守るための役割を主体的に担うよう求めるとともに、市町村が実施する虐待の防止等に関する施策に関し、必要な助言その他の援助を行うものとする。

3 県は、市町村と連携し、関係団体が行う虐待の防止等に関する活動について必要な協力を行うものとする。

 

(養護者の責務)

第五条 養護者は、児童等に対し、虐待をしてはならない。

2 養護者は、自らが児童等の安全の確保について重要な責任を有していることを認識し、県、市町村及び関係団体による支援を受ける等して、その養護する児童等が安全に安心して暮らすことができるようにしなければならない。

 

(養護者の安全配慮義務

第六条 養護者(施設等養護者及び使用者である養護者を除く。)は、その養護する児童等の生命、身体等が危険な状況に置かれないよう、その安全の確保について配慮しなければならない。

2 養護者(施設等養護者及び使用者である養護者に限る。)は、その養護する児童等の生命、身体等が危険な状況に置かれないよう、その安全の確保について専門的な配慮をしなければならない。

3 児童を現に養護する者は、その養護する児童の安全を確保するため、深夜(午後十一時から翌日の午前四時までの間をいう。)に児童を外出させないよう努めなければならない。

 

(関係団体の役割)

第七条 関係団体は、虐待を発見しやすい立場にあることを認識し、虐待の早期発見に努めるとともに、その専門的な知識及び経験を生かし、児童等及びその養護者に対する支援を行うよう努めるものとする。

2 関係団体は、基本理念にのっとり、県、市町村及び他の関係団体と連携し、県及び市町村が実施する虐待の防止等に関する施策に積極的に協力するよう努めるものとする。

 

(県民の役割)

第八条 県民は、基本理念についての理解を深め、県民と児童等及びその養護者との交流が虐待の防止等において重要な役割を果たすことを認識し、虐待のない地域づくりのために積極的な役割を果たすよう努めるとともに、県及び市町村が実施する虐待の防止等に関する施策に協力するよう努めるものとする。

 

第二章 虐待の予防

(虐待予防の取組)

第九条 県は、虐待の予防に資するため、市町村及び関係団体と連携し、児童等が安全に安心して暮らせるよう、養護者、県民等に対し、虐待の防止等に関する情報の提供及び相談の実施その他の必要な措置を講ずるものとする。

 

児童虐待予防の取組)

第十条 県は、児童に対する虐待の予防に資するため、市町村が養護者(施設等養護者及び使用者である養護者を除く。)に対し、妊娠、出産、育児等の各段階に応じた切れ目のない支援を行うことができるよう、情報の提供その他の必要な援助を行うものとする。

 

(乳児家庭全戸訪問事業等による児童虐待予防の取組)

第十一条 県は、児童に対する虐待の予防に資するため、市町村に対し、児童福祉法第六条の三第四項の乳児家庭全戸訪問事業及び同条第五項の養育支援訪問事業(以下この条において「乳児家庭全戸訪問事業等」という。)の実施に関し、家庭への支援が適切に実施されるよう、情報の提供その他の必要な援助を行うものとする。

2 県は、市町村が乳児家庭全戸訪問事業等の対象となる全ての児童の状況を把握することができるよう、必要な措置を講ずるものとする。

3 県は、市町村に対し、乳児家庭全戸訪問事業等の実施状況について、必要と認める事項の報告を求めることができる。

 

(啓発活動)

第十二条 県は、虐待の防止等に関する県民の理解を深めるため、市町村と連携し、分かりやすいパンフレット等の作成及び配布、養護者に対する研修の実施その他の必要な啓発活動を行うものとする。

2 県は、学校の授業その他の教育活動において、児童の発達段階に応じた適切な虐待の防止等に関する教育を行う機会を確保するため、市町村と連携し、必要な施策を実施するものとする。

3 学校は、児童及びその保護者(児童虐待防止法第二条の保護者をいう。)に対し、虐待の防止等のための教育又は啓発に努めなければならない。

 

第三章 虐待の早期発見及び虐待への早期対応

(通告、通報、届出及び相談の環境の整備等)

十三条 県は、早期に虐待を発見することができるよう、市町村と連携し、虐待を受けた児童等(虐待を受けたと思われる児童等を含む。以下この条及び第十五条において同じ。)を発見した者にとって通告又は通報を行いやすい環境、虐待を受けた児童等にとって届出を行いやすい環境及び虐待を受けた児童等の家族その他の関係者にとって相談を行いやすい環境の整備に努めなければならない。

2 県は、市町村と連携し、虐待を受けた児童等に係る通告、通報及び届出を常時受けることができる環境の整備に努めなければならない。

3 県は、虐待を受けた児童等に係る通告、通報、届出又は相談を行った者に不利益が生ずることがないよう、その保護について必要な配慮をしなければならない。

 

(情報の共有)

第十四条 県は、虐待の早期発見及び虐待への早期対応を図るため、個人情報の保護に留意しつつ、児童相談所、警察署、市町村、関係団体その他の虐待の防止等に関係するものの間における虐待に関する情報の共有の促進その他の緊密な連携の確保を図るための措置を講ずるものとする。

2 知事及び警察本部長は、虐待を防止するため、相互に虐待に関する情報又は資料を提供することができる。

3 知事及び警察本部長は、相互に情報又は資料を提供したときは、緊密な情報の共有を図るため、その後も引き続き相互に必要な情報又は資料の提供を行うものとする。

4 県は、虐待の防止等を適切に実施するため、他の都道府県その他の地方公共団体と連携し、虐待に関する情報を共有するよう努めるものとする。

 

(早期対応)

第十五条 県は、虐待に関する通告、通報、届出又は相談を受けたときは、必要に応じ、市町村及び関係団体と連携し、速やかに、当該通告、通報、届出又は相談に係る虐待を受けた児童等の安全の確認を行うための措置その他の必要な措置を講ずるものとする。

第四章 児童等に対する援助等

 

(虐待を受けた児童等に対する援助)

第十六条 県は、虐待を受けた児童等に対し、虐待から守られた良好な生活環境の確保及び心身の健康の回復を図るため、市町村及び関係団体と連携し、必要な援助その他の必要な措置を講ずるものとする。

 

(養護者に対する支援)

第十七条 県は、養護者(施設等養護者及び使用者である養護者を除く。以下この条において同じ。)の負担の軽減を図るため、市町村及び関係団体と連携し、情報の提供、相談の実施その他の必要な支援を適切に行うとともに、養護者が安心して子育て並びに高齢者及び障害者の養護を行うことができるよう、環境の整備を行うものとする。

2 県は、虐待を行った養護者が良好な家庭的環境を形成し、及び虐待を繰り返すことがないよう、市町村及び関係団体と連携し、当該養護者に対し、必要な指導及び支援その他の必要な措置を講ずるものとする。

 

第五章 人材の育成等

(人材の育成)

第十八条 県は、県、市町村及び関係団体において専門的知識に基づき虐待の防止等が適切に行われるよう、これらに係る専門的知識を有する人材を育成し、及び確保するために必要な措置を講ずるものとする。

 

(虐待の防止等に関する研修)

第十九条 県は、児童に対する虐待の防止等が専門的知識に基づき適切に行われるよう、これらの職務に携わる専門的な人材の資質の向上を図るため、児童の福祉に関する事務に従事する者に対する研修を実施するものとする。

2 児童福祉施設等の設置者若しくは事業を行う者又は学校の設置者は、その業務に従事する者又は教職員に対し、児童に対する虐待の防止等に関する研修を実施するものとする。

3 児童福祉施設等に係る業務に従事する者及び学校の教職員は、前項の規定による研修を受けるものとする。

 

第二十条 県は、高齢者に対する虐待の防止等が専門的知識に基づき適切に行われるよう、これらの職務に携わる専門的な人材の資質の向上を図るため、高齢者の福祉に関する事務に従事する者に対する研修を実施するものとする。

2 養介護施設の設置者又は高齢者虐待防止法第二条第五項第二号の養介護事業を行う者は、その養介護施設従事者等に対し、高齢者に対する虐待の防止等に関する研修を実施するものとする。

3 養介護施設従事者等は、前項の規定による研修を受けるものとする。

 

第二十一条 県は、障害者に対する虐待の防止等が専門的知識に基づき適切に行われるよう、これらの職務に携わる専門的な人材の資質の向上を図るため、障害者の福祉に関する事務に従事する者に対する研修を実施するものとする。

2 障害者福祉施設の設置者又は障害者虐待防止法第二条第四項の障害福祉サービス事業等を行う者は、その障害者福祉施設従事者等に対し、障害者に対する虐待の防止等に関する研修を実施するものとする。

3 障害者福祉施設従事者等は、前項の規定による研修を受けるものとする。

 

(虐待に係る検証)

第二十二条 県は、市町村と連携し、県内で発生した児童等の心身に著しく重大な被害を及ぼした虐待について検証を行うものとする。ただし、県が行う検証と同等の検証を市町村が行う場合は、この限りでない。

 

第六章 雑則

(児童又は高齢者に準ずる者に対する措置)

第二十三条 県は、この条例の趣旨にのっとり、市町村と連携し、児童又は高齢者以外の者であっても、現に養護を受けている者で、特に必要があると認められるものについては、児童又は高齢者に準じて必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

 

(体制の整備)

第二十四条 県は、虐待の防止等を適切に実施し、及び虐待を受けた児童等に迅速かつ適切に対応するため、県、市町村、関係団体等の相互間の緊密な連携協力体制の整備に努めるものとする。

2 前項の連携協力体制の整備に当たっては、虐待を受けた児童等の適切な保護と養護者(施設等養護者及び使用者である養護者を除く。)に対する効果的な支援との両立が図られるよう配慮するものとする。

3 県は、市町村が設置する児童福祉法第二十五条の二第一項の要保護児童対策地域協議会の機能の強化及び運営の充実を図るため、必要な援助を行うものとする。

 

(財政上の措置)

第二十五条 県は、虐待の防止等に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

 

附 則

1 この条例は、平成三十年四月一日から施行する。

2 県は、社会状況の変化等を踏まえ、必要に応じこの条例について見直しを行うものとする。フォームの始まり

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