パートナー弁護士になって思うこと(リクルート関係)

都内にある某大手法律事務所にてパートナー弁護士になってしばらくの期間が経過したので、今後不定期に感じたことを書いてみようと思います。今回は、丁度司法試験が終わった時期なので、リクルートについてです。

さて、私が所属する事務所は、いわゆる五大法律事務所ではなく、世の中的には大手と思われているのに、リクルート生からは大手ではないと思われているような企業法務を取り扱う総合法律事務所です。リクルート生から見ると、最もキャラが立っていないタイプということになります。そのため、しょっちゅう受ける質問は「なぜこの事務所で弁護士のキャリアを始めようと思ったのですか?」とか、「他の総合法律事務所との違いは何ですか?」です。

そして、そんな事務所において、パートナー弁護士として新人採用や中途採用に一定程度関わっている私の肌感覚からすると、私が接する範囲での弁護士志望者の動向はおおむね以下のようになっているようです。

  1. 在学中予備試験合格組:五大へ行く人が多い
  2. 東大LS出身者:五大志向が強いが、保険で五大以外の総合法律事務所にも申し込む
  3. 東大LS以外のいわゆる上位LS出身者:総合法律事務所を志望する人が多い

10年余り前の私が学生のころの弁護士志望者の動向は以下のようなイメージで、四大に行きたい人と、四大以外に行きたい人に分かれていたように思うので、当時より五大志向が強まっているというところかと思います。当時はリーマンショックの影響で採用が抑えられていたのと、そもそも四大とそれ以外の事務所の人数差が今ほど大きくなかったことも要因かもしれません。

  1. 旧司法試験合格組:四大志望者と、それ以外の企業法務を扱う事務所志望者に分かれる
  2. 東大LS出身者:四大志望者と、それ以外の企業法務を扱う事務所志望者に分かれる
  3. 東大LS以外のいわゆる上位LS出身者:企業法務を扱う事務所を志望する人が多い

その上で、当時も今も、リクルーターの説明というのは以下のようなものです。

  1. 五大(四大):日本トップである・専門性が深い・色々扱える・五大からそれ以外への移籍はできるが、それ以外から五大への移籍はできない*1
  2. 五大以外の総合法律事務所:幅広く案件を扱える・五大より執務環境がホワイト・ジャンルによっては五大に匹敵する専門性がある

さて、ここまでは一般論ですが、ここからは10年ほど弁護士経験を積み、パートナーとしての経験も積んだうえで思うところを述べようと思います。

まず、結論から言えば、その事務所でキャリアをスタートしたことを、スタートから一定期間(感覚的には5~7年くらい)経過後に思えるかどうかが最も重要だろうと思います。私の場合、少なくとも入所5年目くらいから今に至るまでは、現在の事務所でキャリアをスタートしてよかったと思っていますし、仮に現在の事務所でパートナーにならずに独立していたとしても、その結論は変わらなかったと思います。

次に、コロナ禍によってOBOG訪問ができないので、ブランド力・資本力に優れた五大がリクルートで有利になることや、五大の採用枠が史上最多になっていることもあってかと思いますが、私が学生のころに比べて、五大志向は強くなっています。特に、東大法学部出身者については、五大以外に法律事務所は存在しないと考えているのではないかという印象すら受けます。

この点についての私の意見は、「五大でキャリアをスタートするのは無難なのでいいと思うが、他の事務所を見て決めなくていいか」というものです。五大はアソシエイトの給与も高いですし、事務所全体で見れば案件の取扱いの幅も広いですし、優秀な弁護士はとても優れていると思います。

一方、①経済条件については、アソシエイトを務めるのは10年程度であり、その後のパートナー就任確率*2を考えると、五大のほうが他の事務所より経済条件において優れているとは言い切れない、②パートナーにならずに事務所を出るときに、五大のシニアアソシエイトは、他の総合法律事務所よりも取り扱い分野が狭い傾向があるため、独立や転職がしにくい傾向がある*3、③インハウスへの転職市場において、五大のほうが他の総合法律事務所より有利という印象がない、④事務所全体で見れば案件の取扱いの幅は広いが、自分の希望が叶うかどうかは別論というところです。ただし、私自身五大で働いたことはないので、あくまでも同期の東大LS生からの見聞や、中途採用等を通じて聞いた話によるものではあります。

以上要するに、「キャリアをどこでスタートするかは非常に重要なので、自分の目で見て決めろ」ということです。キャリア人生は全て自分で選択し、責任を負うものです。私も含めてですが、目の前にいるリクルートについて語る弁護士が、自分の人生に全面的に責任を取ってくれるわけではなく*4、自分が入所してみたらその弁護士がいなくなっている可能性すらあります。したがって、複数の事務所を巡り、比較するための情報を得て決めるのが望ましいと思います。そのためには、サマークラークやウィンタークラークのような、一定期間事務所の中に入って自分の目で見る機会が有益でしょう。

最後に、自分の後輩である東大法学部生や東大LS生を見ていて特に思うことについて触れたいと思います。いかにもオジサン的コメントですが、私が学生の頃、リクルートというのは、人生において正解がないキャリア選択という問題に初めて取り組む機会であったように思います。すなわち、それまでは受験社会トップの東大や東大LSに行くためにひたすら勉強していればよかったのですが、キャリア選択では、自分の目と足を使って選択肢となる事務所を探し、自分の適性や相性、志向を踏まえて選択する必要があります。これは自分自身に向き合ういい機会でしたし、社会勉強にもなっていました。そして、私のころは、いわゆる就職氷河期で、内定をもらうだけでも大変でしたので、とりあえず沢山の事務所を回ろうという傾向がありましたが、最近は、東大法学部生や東大LS生の多くが五大から内定をもらえるので、キャリア選択における主体性が下がっているように思います。五大に入ることに対する私の意見は、上に書いた通り、五大でキャリアをスタートするのは無難だというものですが*5、一方で、キャリア選択は受験とは違い、人それぞれに正解がある者ですし、その後の職業人生に大きく影響するので、後で後悔しないよういろんな事務所を見て決めたほうがいいのではないかと思っています。

終わりに、このブログは匿名ですので、ポジショントークはしていないつもりですが、この記事に記載した私の意見については、かなりバイアスがかかったものになっていると思います。したがって、学生の皆さんには、いろんな意見に触れて、5年後10年後に後悔のない選択をして頂きたいと思っています。

*1:移籍についての説明は必ずしも正しくないと思っています。私の感覚では、五大の専門分化しすぎたシニアアソシエイトは中途採用しにくいです。一方、私の周りだけでも、五大以外から五大に転職した弁護士は数人います。

*2:通常、パートナーの経済条件は「当たれば大きい」というものなので、アソシエイトより所得の期待値はかなり高くなります。五大のパートナー就任確率は、それぞれの事務所の「ニュース」に掲載されている10年以上前の新人弁護士入所記事を見ればわかりますが、現在のような40~50人採用時代の就任確率は、その頃より低くなるのだろうと思います。

*3:独立するためには、自分の顧客を持っているか顧客を獲得できる見込みがあることや、幅広く受任できるスキルや経験があった方がいいと思いますが、五大では他の事務所に比してこれらを得られる可能性が低いという意味です。

*4:パートナー弁護士は、アソシエイトや事務所に対する責任は負いますが、アソシエイトの人生に責任を負う訳ではありません。

*5:特に、東大法学部に一定数いる、ぶっちぎりで優秀な方は、五大の中でも成功し、そのまま突っ走れる可能性もあると思います。