刑務所訪問感想

検察修習で刑務所を訪問する機会をいただきましたので、それについていくつか。

まず、刑務所内を見学した後、あの府中に長く勤めていたという、ベテラン職員さんの講義を拝聴しました。

個人的にずっと、刑務所というのは矯正施設としての役割を果たせているのか*1とか、再犯防止に一番効果的なのは何なのかとかいったことが疑問だったので、今回はその疑問を解消しようと若干意気込んでいました。ですから、見学の際も、許される範囲で色々見たり触ったりしていました。また、講義後の質疑応答でも、自重すべきではないかというくらい張り切っておりました。

ベテランの職員さんによると、やはり受刑者に技術、最もよいのは工作機械の運用技術、を身につけさせ、出所後も働けるようにすることとのこと。しかし、それにはコストもかかるので、なかなか実現するのは難しいようでした。自分は刑務所が矯正施設として機能しないと、刑罰を科すことの前提の一部が崩れてしまうと思っているので、そのコストを賄うべきと思うのですが、多くの人は自分含めて刑務所について知識が少ないので、こういうのはなかなか理解が得られにくいのかもしれません。現状、刑事事件発生後、一番騒がれるのは逮捕時、次に判決時、その後はどうなったかよくわからない、という状態が主だと思いますが、本当に大切なのは、執行或いは釈放後だと思います。つまり、事件を起こしてしまった人間を矯正し、本人の社会復帰を促すということこそ、再犯を防止し、社会の安全を保つという観点から最も大切だと思いますが、その辺について、世の中はあまり関心を有しているようには思えません。
とにかく、上のようにお話しいただき、更にその職員さんは、教育者としての雰囲気をお持ちだったので、一応刑務所は矯正機能を持っているように思いましたが、実際の効果のほどというのはいまだ明らかではなく、この点については、保護司さんのお話等も伺ってみたいなあと思いました。

ところで、自分がお邪魔した刑務所は、懲役10年未満のA級と言われる、犯歴の浅い受刑者が収容されているところで、受刑者の働く工場では、職員は警棒や手錠を持っておらず、思っていたより緩やかな雰囲気のところでした。これが、府中のようなB級受刑者を収容する刑務所では、全然違うとのこと。また、工場での労働内容は多様で、自分が訪れた際にも、紙折りや木工、情報処理といった作業や訓練が行われていましたが、作業については基本的に民間等の企業の注文によるもので、実は注文をとるのに刑務所関係者の方々はかなり苦労されているそうです。特に、最近では仕事を中国に取られ、なかなか財務状況が苦しいのだとか。刑務所の中でそういった経済的な話を聴くことになるというのは思いがけず、驚きました。

いずれにせよ、刑務所や刑の内容等については、世間の関心が及ばないところですが、刑罰、ひいてはその根拠の議論においては絶対に欠かせない内容だと思われます。たとえば、検察官の論告において、犯罪態様が悪質で、再犯可能性も高いので「長期にわたり矯正の必要があるから」長期にわたり懲役に処すべきといった表現*2が出てきますが、それも、刑務所が実際に矯正機能を有していないと、説得力を欠くことになるでしょう。その辺含め、今後も短い検察修習の間、学べることは学び、引き続け考えて行きたいと思います。

(しかし、まとめが小学生みたいで酷い)

*1:なお、以下ずっと矯正の話ばかりしていますが、刑罰は応報目的も有していることは当然です。ただ、今回は事の性質上矯正目的についてのみ述べます。

*2:この表現は要旨であって、実際はこんないい加減な表現ではありません。