修習にて思うこと(5)―法曹養成制度と今弁護士になるのに必要な覚悟

前のようなことばかり書いていると、貸与制含めた法曹養成制度全体のことを考えていないと言われそうなので、書いておきます。とはいえ、二年前書いたこと*1と今も意見はそう変わっていません。状況は悪い方にしか変わっていないようですので。


<法曹養成の最大の問題とは>
私は、現在の法曹養成における最大の問題は、法曹界の質が下がることと、人材の無駄遣いだと考えています*2。そして、その根本的な原因は、法曹に対する需要が供給に比べて少ない又は顕在化していないことや、司法試験の合格率が低いことといった、法曹界への進路選択をするリスクが大きすぎることです。それゆえ、収入・やりがい・将来が見えない/見えにくいこととなり、わざわざ法科大学院や修習にかけるコストをかけてまで法曹への道を選ぶ人が減っていると思われます*3。たとえば、私が今学部生だったら高い金を払って法科大学院を卒業しても合格するかどうかわからない司法試験を受け、更にそれでも仕事があるかどうかわからないという法曹界を目指さないと思います。また、仮に学部生のころに戻れるとして、もう一度法曹界を目指すかどうかはわかりません。

よって、法曹志望者の人数が減るのが、法曹界の質の低迷や、若年層の無駄遣いを招くといったことを齎し、それが問題だと思うのであれば対策が必要ということになります。なお、この点については、前者は法曹界の価値に対する評価の問題であり、後者は25歳かから34歳の非正規雇用率が4割くらいに達していることからすれば特に問題視すべきことではないという考え方もありうると思います(私はそうは思いませんが)。


<対策としてありうるもの>
上の理屈からすれば、対策として考えられるのは以下のとおりです。

1.法曹に対する需要を増やす
2.需要に見合った法曹の供給をする(供給を減らす)
3.法曹になるためのリスクを減らす

1.需要を増やす
まず、1の需要増については、これだけ修習生の就活難が言われているような状態ですので、増やすのはなかなか大変そうです。なお、この点について私は、私の一年間の修習を経ての印象としては、少しは需要はあるけれども、それに修習生がアクセスするのが難しいのではないか*4と思っています。

2.需要に見合った供給をする(供給を減らす)
次に、2の供給減については、実施自体はあまりコストがかからないと考えられます。しかし、多少議論がされているとはいえ、今年も合格者は減っていないので実現の見込みは薄そうです。

3.法曹になるためのリスクを減らす
そして、3のリスクについてです。上でいうリスクは、コスト負担と合格率の問題が主です。

まず、合格率については、上げることでリスクは下がりますが、それに伴って供給が増えるようでは供給過多のリスクが高まります。そこで、私は、ロースクール受験の時点で入学者を絞り司法試験の受験者を減らす*5ことによって、司法試験自体の合格率をあげるのが望ましいと思っています。この場合、未修について、事実上司法試験を回避することができるという問題はありますが、これも面接なり論文也で絞り、ロースクールの試験でしっかり選抜するほうが現状よりはいいと思います。

次に、法曹になるための避けられないコストは、ロースクール入学から司法修習終了までの間のものです。この期間は最短約4年ですので、その4年間にかかる費用と時間がコストの主なものとなるでしょう。そして、コストを減らすには、ロースクールをなくす、修習をなくす、ロースクールの費用負担を履修者以外がする、修習の費用負担を履修者以外がする*6、という4つの選択肢があり得ます。

私は、司法修習は実務家養成のために不可欠であり、仮に廃止したとしても修習のような教育は、雇用する弁護士事務所等がやらなければならないといけないことになると考えられることからすれば、司法修習はなくせないと考えております。

ロースクールをなくすことについては、個人的にはロースクールは、一般論としてはコストパフォーマンスが悪いように言われております*7ので、必修の廃止をしてもいいとは思っているのですが、いったんここまで作ってしまった制度を廃止するのはかなり非現実的でしょう。ただし、ロースクール必修の期間を短くすると言う意味での一部廃止であれば、一応実現性もあるかもしれません*8。また、ロースクールの費用負担を履修者以外がするというのも、非現実的です。

残るは、修習の費用負担を履修者以外がする、つまり要するに給費制の復活ですが、これは金の問題だけという意味ではまだ低いながらも実現性があるのかもしれません。


<まとめ>
以上からすると、そもそも取りうる対策としては、
あ.合格者減
い.法科大学院の定員を減らすことで司法試験の合格率を上げる
う.給費制の復活
ということになります。

私の理想とするのは、ロースクール必修化の廃止*9です。これは要するに、ほぼ従来の司法試験に戻すことになりますが、なかなか難しそうです。私としては、この制度にしてしまって、司法試験合格者の価値を落として、ふつうに就職の際の履歴書に書く一資格ぐらいにしてしまうというのも一つの考え方ではないかと思っています*10

そこで私としては上記い.が一番かなと思っています。また、潜在的需要がないか、それをくみ上げられないのであれば、あ.と組み合わせるべきでしょう。あ+いの場合、法科大学院の定員はだいぶ減らされることになります。

最後に、給費制についてコメントしておきますと、自分が自分より上の世代に比べて300万円余り損をしておきながらも、給費制復活についてはあまり支持していません。一つには、そもそも法科大学院でかなりの借金を負わされることからすれば、そこから無利子で返済条件が緩い300万円の借金が減ったところで、法曹志望者が減らなくなるとはあまり思えないこと、もう一つには、3.11もあって、給費制復活の見込みがあるとは考えられないことです。もちろん、給費制が復活すればリスクが減る方向に働くので、上のあ.、い.と組み合わせるのはありだとは思いますが、積極的に支持するものではないということです。


<結語>
現状は、合格者を増やしたものの、修習修了者たちは結局今迄通り弁護士として勤務する人が多数で、従来の修習修了者が吸収されていた市場への供給が増えただけで、他の市場はあまり膨らんでおらず、供給過多で余った人たちの無駄遣いと、志望者減による法曹の質の低下が齎されているというところだと思われます。そうすると、ざっくり言うと、それでも構わないくらい資格取得にかかるリスクを抑えるか、他の市場を開拓等して、現状のリスクに見合うリターンを与えるかのどちらかしかありません。そして、後者ができないなら、極力リスクを抑えるために何ができるかという話として、上のような結論になるということです。

私も前途が不明瞭で不安だらけではありますが、極力不安を取り除けるようリスクヘッジをし、選んだ進路で努力していくしかないということだろうと思っています(というより、こう思うしかないんですね)。たとえるなら、現在弁護士になるというのは、野球選手やラッパー*11になるのと同じくらいの意気込みや覚悟でやらなければならないということでしょう。進路を定めた以上は、しっかりと頑張りたいと思っています*12

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*1:http://d.hatena.ne.jp/he_knows_my_name/20101007/1286432718

*2:副次的な問題として貸与制で私含め修習生が多重債務者になること。

*3:コスト増大とは、金銭面の問題が主ですが、人によっては時間的な問題もありうるでしょう。

*4:修習生の努力不足もあるだろうし、需要と供給をつなごうとする立場の方があまりいない、更に、需要を経営として成立させるのがなかなか難しいといったことに原因があると思っています。

*5:すなわち、法科大学院の定員減或いは法科大学院自体を減らす

*6:なお、当然のことではありますが、厳密には現時点でも国は費用負担をしており、貸与制に切り替わったことで、給料が無くなったことで、従来国が負担していた費用が、修習生に転嫁されたということです。

*7:なお、母校についてはコスパがいいと思っています。

*8:ほとんどゼロでしょうが。

*9:少なくとも母校に限って言えばロースクール自体には価値があると思っていますので、ロースクール自体を廃止する必要はないのではないかと思っています。

*10:ただ、周知のとおり、日本では弁護士以外に法律を扱う仕事が多いので、そうしたところで就職できるのか疑問もありますが。

*11:なお、昼間はバイトをしたりしているラッパーと違って、修習生は兼業禁止であります。

*12:が、とりあえず残り一科目の二回試験を頑張らねば…