弁護士の横領増加と弁護士の質

香川で元県弁護士会長が横領で告発されたり*1、福岡県では不祥事が連発し、ついには九州弁護士会連合会の理事長を務めた方が詐欺容疑で逮捕されたり*2しています。

上記註2の記事によると、
法務省警察庁の統計などによると、刑法犯罪の発生率は近年、1年間に人口10万人あたり2,500件前後、詐欺に限ると50件前後、横領は60件前後で推移している。福岡県弁護士会所属の弁護士は約1,000人。単純に換算すると、1,000人あたりなら詐欺は年間0.5件、横領は0.6件になる計算だ。一般の犯罪発生率をあまりにも上回っている。弁護士にも同じ比率で犯罪者が発生するという想定で比較すること自体が、すでに異常事態」
ということです。

このような弁護士の不祥事増加の裏には、弁護士の経済状況の悪化があるのでしょう。そしてそれは、弁護士増員に対し、市場はたいして成長していないことに原因があります。市場原理的な発想から人数を増やしてみた弁護士業界ですが、私は、市場原理は弁護士業界にはなじまないものだと思っています。

私が修習を通して感じたのは、企業法務等をのぞけば、弁護士の顧客にとって、弁護士の腕がいいのか悪いのかを判断するのは難しいということです。しかも、弁護士業界には、基本的に質を担保する規制官庁のようなものもありません。つまり、饅頭にたとえて言えば、饅頭を購入する人は味の差がわからない人で、饅頭の安全性をチェックするシステムもあまりないということです。そういう市場であれば、饅頭の味や安全性で勝負するよりも、買いたくなるような宣伝をするのが合理的な戦略となる、つまり、弁護士としての腕を磨くよりも、イメージ戦略で集客するのが合理的ということになります。
そうだとするならば、弁護士業界の質を市場原理で担保するのは難しいと思います。

従来、弁護士がそれなりにいい暮らしができていたこと*3で、弁護士の遵法という意味での担保はされていたのでしょうが*4、それが崩壊したらどうなるかというのが最近分かってきているということなのでしょう。規制官庁を作るのか、人数を減らすのか、新しい市場を開拓するのか対策はそう考えられないような気もしますが、こういう状況は悪化することこそあれ、好転することはないのでしょう。
これは、弁護士の社会的役割からすると好ましくないことであるのは言うまでもありません。しかし、対策がされるような見込みもないようです。

*1:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121123-00000308-mailo-l37

*2:http://ib-specialist.jp/2012/11/post-49-1113-ymh-1.html

*3:私は羽振りが良かった時代の弁護士は知らないので伝聞です。

*4:この点質を担保しているのが司法試験と司法修習です。前者の科目増加はいいことだったと思っていますが、後者については期間が短くなったのはあまりいいことではないでしょう。ただ、貸与制になった今となっては、期間が延びるとただでさえ多い負担が増加するので、延ばすのは不可能だと思いますが。