二回試験についての若干のアドバイス

1 二回試験とは
修習生の皆さんはもちろん、ロースクール生の皆さんなどならご存知かと思いますが、司法修習を修了するためには、二回試験なる試験をクリアしなくてはなりません。修習における科目は、民事裁判、刑事裁判、検察、民事弁護、刑事弁護というように分かれていますが、二回試験はその5科目について、裁判等の記録を読み、30〜50枚程度A4の起案用紙に設問に従って論述するというものです。

例年不合格者は2000人余りの受験者のうち50人程度ということもあり、ふつうにやっていれば落ちない試験ですから、実務修習中はあまりこの試験を意識することはないでしょう。しかし、そもそも試験自体が朝10時から夕方6時までというのを5日間という、司法試験よりもハードなものである上、落ちたときのリスクがあまりにも大きいことから、集合修習の始まる8月あたりから、だんだん緊張感が高まってきます。特に、試験当日の会場の雰囲気は些か異様で、かなりの緊張感が張りつめた空間で受験を強いられることになります。そういったことがあってか、残念ながら、二回試験に落ちてしまう人もいるのです*1。言うまでもないですが、二回試験に落ちると、内定は取り消されることがありますし、合格発表前に家を準備したり引っ越ししたりしていると、それらにかかった費用は全て無駄ということになりかねません。そういう意味では、司法試験以上に絶対に落ちられない試験なのです。

そこで、私なりに二回試験対策を二つの観点からまとめてみました。
一つは、二回試験に合格するための勉強法、もう一つは、万が一のときの備えをどうするかです。

2 合格のための勉強法
(1)普段の修習における意識
 民事であれば要件事実や事実認定について、事件を見るに当たり確認しておく必要があります。特に、事件のおぼろげな内容が頭に入っていれば、帰宅後に要件事実のテキストで具体的な事件について要件事実を確認することができるでしょう。また、事実認定については、「事実認定のしおり」にあるような二段の推定や事実認定に使える事実といったものをしっかり頭において生の事件を見ることで、十分二回試験対策になります(し、これこそあるべき修習かもしれません)。
 刑事であれば、進行する事件を見る際に、「今行われている手続は何のための手続で、根拠となる法令は何か」ということを意識することで、手続についての理解を深めることができます。修習に入るまで刑事手続をよくわかっていなかった私でしたが、裁判官が期日後に、「今の手続は何のための手続で、根拠条文は何?」と尋ねてくださったりして、とても頭に入りましたし、おかげで刑事裁判で出題される手続問はだいたい何とかなりました。

(2)集合修習までの起案を活かす
 たいていの科目において、集合修習前に起案がありますが、これをぶっつけ本番で受けるのは望ましくありません*2。起案というのは、一定程度慣れが必要なものですけれども、本番までに二回試験と同じような起案をする機会は意外と少ないです*3。ですから、集合修習までの起案については、その前にきちんと、起案では何を、どのようなスタイルで書かなければならないかということをしっかり理解しておき、慣れるためのものとして利用すべきです*4。私は、民事裁判の起案で要件事実をわかってなさすぎて、起案後の面接で教官に「このままじゃかなりまずいよ」と告げられましたが、こういうのは絶対にやめましょう。

(3)集合修習を活かす
 集合修習では、一日三コマ6時間の座学を受講しますが、2カ月で各科目二回ずつ起案をします。これは、二回試験と同じような出題形式ですので、この起案に全力でぶつかれるよう、準備を怠らないようにしましょう。特に、一周目の起案は、集合開始直後にありますので、実務修習中から少しずつ準備をしておきましょう。起案後は、それぞれ成績が付けられて戻ってきますが、まずそこで最低ランクの評価を取った人は、強い危機感を持つべきですし、それ以外でも半分より下に位置する成績を取った人も、気を抜くとやられるという意識を持ちましょう。
 では、何をすべきかですが、それは以下の通りです。

1 優秀な成績をとった人や、半分より上の成績をとった人の答案を見せてもらうこと
2 周囲の友人と、起案後に何を書いたかざっくりでも話しあってみること
3 しっかり教官の講義を聴き、自分の起案の何が悪かったかをしっかり確認すること


 まず1ですが、二回試験は人並みの答案を書けば絶対に落ちない試験ですから、逆にいえば、落ちるためには人と違う悪い「ひらめき」を持ってしまうのがまずいということになります*5。したがって、そのような「ひらめき」をしてしまわないよう、周りはどういうことを書いているのかということを知るのが大変重要です。また、答案を見せてもらうのはなかなかハードルの高いことですから、2もなかなか有用であろうと思います。
 ただ、他人の答案を見ても、自分の答案の何が悪いのかを知ることはできません。ですから、教官の講義で、自分の何が悪かったのかをしっかり確認しましょう。特に、基本的な「起案とは何か」といったところから間違っていたりする*6と、二回試験で不合格となるリスクが非常に高くなるので、自分の答案の悪かったところがその辺りにあったりしないかしっかり確認しましょう。何が悪いのかわからなかったら、教官に質問に行くべきです。わからないことをそのままにするのは非常によくないです。

(4)勉強会を活かす
 特に、先に集合修習が始まるA班は、選択修習中起案に触れていないと、二回試験本番で涙目になること請け合いなので、みんなで集まって勉強会をするなどして起案の勘を失わないようにしましょう。

(5)試験直前〜当日について若干
 まず、B班は和光で受験できるのでいいのですが、A班は各地によって受験会場が異なります。もし自宅から会場まで移動が大変なら、会場近くのホテルを早めに押さえておくことを強くお勧めします。また、試験直前に何を復習するかと言ったことはあらかじめ決めておきましょう。試験当日の会場は先に書いたとおりやや異様な空気ですが、気にする必要はないと思います。
また、二回試験には、「それをやると一撃死」といわれるもの*7がありますので、それだけは絶対にしないよう気をつけましょう。

(6)私の場合
 私は、上のように偉そうに書きましたが、(1)はともかく、(2)は全然できておらず、教官にダメ出しされました。ただ、それがきっかけで少しずつでも勉強するようにしたため、集合での成績は真ん中くらいでした。私は文章を書く物理的スピードが致命的に遅く、30枚に届かないことがザラなので、それにしてはましな成績だと思います*8。集合では、同期の親友たちと起案後はすぐに何を書いたか、ポイントはなんだったか、何を書いたらまずいかといったことを話しあい復習に代えました。また、優秀な答案も手に入れましたし、講義も自分なりに真剣に聴き、質問にもそれなりに行っていました。私はA班なので、選択修習中は自分で勉強会を主宰し、勘を鈍らせないようにしていました。試験期間は、会場まで徒歩10分の梅田のホテルに泊まり、試験終了後は同期とご飯を食べてストレス発散していました。

3 万が一のときの備え
 以上のような努力をしても、万が一ということはありえます。その場合にどうするか。リスクが僅かなりとも存在する以上は予め考えておくべきでしょう。
 二回試験に落ちると修習生の身分がいったん失われる*9ことから、今まで割と受け入れてもらえていた弁護士会の委員会への潜入といったことも難しくなるかもしれません。また、二回試験不合格が法曹界ではおそらくかなり不利な評価を受けるといったことから、公募にて採用されるのは難しくなるでしょう。
 そうすると、考えられるのは、以下の三つでしょう。

1 二回試験に落ちても待ってくれるような事務所の内定を取っておく
2 落ちたときは進路を変更する
3 落ちても就職活動ができるような環境を作っておく

 まず1について、二回試験に落ちても待ってくれるような事務所については、大事務所ほど内定取消をする傾向があるらしいので、そのような事務所を避けるということもありえますが、そうはいっても行きたい事務所に行くのが一番なので、かなり非現実的です。しかし、内定先がどういう事務所であろうとも、待ってくれそうなくらいの人間関係を内定先と築いておくことは重要です。
 次に2について、落ちたときの進路変更は考えておくにこしたことはありません。
 そして3について、これが一番現実的に採りうる方法がある選択肢であると思います。以前書いた就職活動の方法*10とも重なりますが、修習地の先生方と仲良くなっておくのがその一つでしょう。或いは、弁護修習先の指導担当の先生を頼るのも一つでしょう。つまり、主観的にでも「自分が落ちた際にあの先生になら頼っていけるのではないか」と思える人間関係を構築することです。これは少々厚かましく、或いは嫌らしく聴こえるかもしれませんが、別に普段からそういうことを目的として人間関係を構築しろと言っている訳ではありません。普段から先生方と仲良くさせていただくことは、自分にとって勉強になるわけですから、その結果そういう人間関係を構築できればいいねという話です。

 私の場合は、1はちょっとわかりませんが、2については、実家に帰って農業に従事するか、中国に留学してから、現地の事務所で雇用されて語学力や中国法の知識といった付加価値をつけ、二回試験合格後中国法務の強い事務所を狙って就活することを考えていました。3についても、主観的には問題なかったと思っています。

 結局、上記1ないし3あたりを考えずに落ちたりすると、青天の霹靂で何もできない状態になってしまうので、それだけは避けろということです。たとえば、早めに大規模事務所で内定を取ったため、実務修習地では就活もせず、同地で知っている先生は弁護修習先くらいという状態で二回試験に落ちたりすると悲劇です。二回試験に落ちる前に3でいうような関係を構築できていないと、おそらく二回試験不合格者は弁護士会に潜入して先生方と知り合うということもできないため、就活もままならないでしょう。そこで仮に人間関係があれば、修習生でなくても入りやすいであろう委員会後の飲み会から参加させてもらうこともできるでしょうし、先生に事務所訪問を紹介してもらうこともできるかもしれません。しかし、そういった対策をしていないと、突然不利な条件で社会に放り出されるのです。

4 最後に
 修習生と言うのは、兼業もできず借金生活で、修習しながら厳しい就職戦線で戦わねばならない訳ですから、なかなか不利な身分です。しかし、二回試験に落ちたりすれば、一層悲劇的な状態になります。そうならないための対策、そうなったときの対策をしっかり考えておきましょう。特に、いくらローや司法試験の成績がよかろうとも、二回試験に落ちると、その人の評価はおそらくかなり下がってしまうでしょう。そういうリスクを負っているということを少しでも頭において修習に臨んでもらえればと思っています*11

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*1:私の友人にもいます。

*2:ちなみに、当然ですがJ・P志望の方は特に全力で臨みましょう

*3:集合では各科目2回のみ。

*4:ふつうしていると思いますが…

*5:私の教官はよく「ホームランを狙うとよくない」とか、「自分が天才ではなかろうかと思うようなひらめきがよくない」と仰っていました。

*6:そんなことありえるのかと思われるかもしれませんが、たとえば、刑事弁護で被告人の無罪を立証しようとする人が例年いるというよう噂を聴きます。

*7:検察での起訴状で自分の実名を書く・民事弁護での当事者の取り違え・刑事弁護での(一部)有罪弁論。一撃死に準じるものとして、民事裁判での訴訟物大外し等

*8:ロー入試以来、書く量がどんどん増えて行って辛いことこの上ないのです、という言い訳。

*9:どうやら、一年間身分がなくなり、二回試験再受験の際にもう一度付与されるようです。

*10:http://d.hatena.ne.jp/he_knows_my_name/20120318

*11:とはいえ、そういうことばかり考えて修習に集中しろという話ではありません。起案能力を高めるのはあくまでも修習の一部でしかないので、何事もほどほどに。