東京五輪の感想

閉会式を見ていて、相変わらず開会式同様、大きなコンセプトもなく、何が伝えたいのかさっぱり分からないし、大会場に見合わないテレビ的な小ネタの蓄積のような演出に辟易しながら、改めてこの五輪は、昭和又は前回の東京五輪に対するノスタルジー好き世代による、同世代のためのものだったのだろうと思わされました。また、国家間競争が激しくなっているこの時代において、世界に胸を張って打ち出せるコンセプトというものを持てないわが国が、今後衰退していくであろうことを改めて思い、嘆息しました。
 
趣味で歴史を勉強していると、自分も長い歴史の中で生きていること、自分は大きな歴史の流れには逆らえないこと、そして、人生はその流れの中でいかにうまく自分を生かし、または活かし、自分と家族や周囲の大切な人たちとうまく生き残っていくかということであるということに気づきます。また、国や組織にとって、いいときもあればわるいときもあること、それは国や組織の構成員の頑張りだけでなく、方向性や時の運によって左右されることにもうっすらと気づきます。感覚的には、日本の場合、戦後を引っ張ってきたリーダーが作り上げたシステムと人材の、その次の世代への移行がスムースに進んでいない印象です。仮にこれが事実であれば、明治政府が安定する過程を見た世代の次の世代が失敗した大戦と同様、対戦を見た世代の次の世代が失敗した*1ということなのではないかと思っています。何がその原因なのかはわかりませんが…。
 
それはさておき、このコロナ禍でステイホームだったこともあって、東京五輪は、人生で一番競技を見た時間の長い五輪になりました。したがって、以下では、今回の五輪で印象的だったシーンを列挙しておこうと思います。
 
・ウェイトリフティング女子の三宅選手。残念ながら記録なしに終わったけれど、最後のトライが終わって下を向いたときの、無念さとやり遂げた感が混ざったような表情が記憶に残りました。
 
スケートボードストリート男子。職人のような堀米選手もスケボーの印象を変えてくれたけれど、何より解説の瀬尻さん。ネットで話題になる前から爆笑しながら見ていました。字面で見ると、「やべー」「半端ねー」とチャラい感じなのですが、実際に聞くと落ち着きがある雰囲気であり、アナウンサーの問いかけに丁寧に答えるので、全くチャラく聞こえないのでした。瀬尻さんのコメントで点数の目安がわかる*2というネタも笑いました。
 
・卓球混合ダブルス決勝。水谷選手の選手としての一生を賭けたかのような気迫。絶対王者中国の両選手の淡々とした戦いぶりと、敗戦後の劉選手の涙。勝って当然・勝たないと責められる巨人と、巨人に立ち向かう戦士という対比でした。
 
・ゴルフ男子松山英樹選手の協議終了後のインタビュー。「オリンピックっていうのはどういう評価なのかわからないですけど、やっぱりメダルは取りたかった」という、率直なコメントが記憶に残りました。どの国も決まった数しか出場できないという制限下での競技に意味があるかという議論を踏まえてのものだろうと想像しました。
 
・バドミントン女子シングルス決勝の陳選手と戴選手。絶対に負けたくないという気持ちが物凄く強いと思われる場面で、冷静な表情を崩さない陳選手と、気迫を前に出す戴選手が対照的でした。マッチポイントになったとき、それまで冷静だった陳選手がそわそわし始めたのも人間らしく、一方で最後まで諦めない気迫を前に出した戴選手もカッコよく。ちなみに、この二人、世界ランク1位と2位だけれども、今までは圧倒的に戴選手が勝っており、陳選手にとっては相当嬉しい勝利だったはず。
 
ソフトボール決勝を決めたカナダ戦の後藤選手の六連続奪三振。生で見ていて衝撃でした。決勝よりカナダ戦の方が危なかった気がしていたのですが、後藤選手の三振で流れができたように思います。その分、河村市長による「噛みつき事件」は残念です。なお、この事件は、噛みついたことだけでなく、その前後の発言も極めて問題があるものばかりで*3、私自身かなり衝撃を受けています。確かに特に地方都市に行くと、この世代の方々がこのような発言をするというのは見られますが、名古屋という大都会の市長が、公の場でこのような発言をするというのは流石に驚きです。
 
・陸上女子1500m/5000m田中選手。特に1500mについては、本番で日本記録を続々更新していくのが化け物すぎて、生まれて初めて中距離を生放送で見たところ、ついに女子史上初の4分を切るシーンを見てしまいました。また、田中選手がグラウンドから出るときに、ありがとうございましたと大声で一礼して出ていくのも印象的です。走った後のインタビューでは、マスクをして応じ、息苦しいのか、マスクの下の部分をつまんで話していたところも律儀な方だなと思いました。
 
・陸上男子400mリレー決勝の松岡修造さんのインタビュー。たぶん最初にNHKのインタビューに応えた後、松岡さんのインタビューという順番だったと思うのですが、直後のNHKの方では、茫然自失で質問とかみ合わない多田選手、とりあえず纏めなきゃという山県選手、フォローしようとする桐生・小池選手で、本音がぜんぜん引き出せていなかったのに対し、気持ちの入ったインタビューで選手の本音を引き出していたように思いました。特に、桐生選手の「正直言って後ろ(にいる結果を出して喜んでいる他国選手)が羨ましいです」「自分が予選でいい走りをして、多田・山県さんに心の余裕があれば違っていた」というコメントは刺さりました。負けた選手に対して直後にインタビューするのはどうかという声もあると思いますし、それも一理あるとは思いますが、聞く以上はここまでいいインタビューをしてほしいと思います。
 
・バスケット女子。準決勝のフランス戦を生で見て日本の強さにびっくりして決勝も生で見ました。さらに、その前の準々決勝のベルギー戦をNHKのサイトで見直しました。どんなスポーツでも、フィジカルに劣る相手に「スピードで圧倒」等の方法で勝つのは、試合中身長は縮みませんが体力はなくなっていきますから、口で言うより物凄く大変です。全日本は、フランス戦ではそれを難なくやっている(ように見える)のが凄さでした。そして、キャプテンの高田選手のキャラ(派手なルックスや、インタビューは真面目に答えているのに、終わった後いつもイエーーってやるところ)やリーダーシップ、試合中も怒声を上げるコーチ(解説が「激怒案件」と口走るレベル。ハーフタイムでは日本語で気合を入れる)、試合の方が練習より楽と言い切る一人一人特性がある選手など、大変魅力的なチームでした。コロナ禍落ち着いたら試合を見に行こうと思いましたが、世間的に知名度が高くなかった競技がこうやって知られるようになるのは五輪のいいところのように思います。
 
コロナ禍下での五輪開催の是非については、様々意見があり、自分にも意見がありますが、それとは別にして、この日のために努力を重ねた超人たちにはリスペクトですね。この後、パラリンピックでも超人たちが活躍されることを期待してしまいます。

*1:なお、私自身は、たとえば森喜朗氏個人の能力としては、高い部分があると言われることがあるのはその通りだと思っています。ただ、そのような代えがたい人物を守れる周辺の補佐者がおらず、かつ、後任が育っていないように思えるのが問題だと思っています。あれほど高齢になると、発言において最新の人権意識に配慮するのは困難になるでしょうから、本来はそのような場に置かないか、そうなる前に後任者が承継すべきです。

*2:

ぶりてん on Twitter: "ルールわからなくても解説からわかるスケボーの採点目安は草… "

*3:

【表敬訪問の詳報】河村市長「旦那はいらないか」「恋愛禁止か」等の質問も ソフト後藤選手は“大人の対応” | 東海テレビNEWS