春高バレー女子決勝(東九州龍谷対古川学園)@東京体育館見に行ってきました

結果は東九州龍谷が3-1で古川を破り、前人未到春高四連覇を果たしました。


久々に感動で涙しました。

というのも、バレー経験者の目からすると、東九州龍谷のバレーというのは、大変な努力を重ねなければできないものだというのがよくわかるもので、一つ一つのプレイから、その努力がにじみ出ているように見えたからです。

バレーで相手が体格で自分たちより勝る場合、高さと力では戦えませんので、スピードとコンビ*1、そして相手の攻撃封じで対処するのがセオリーです。攻撃封じというのは、たとえば相手のレシーブの下手な選手か、相手のエースをサーブで狙い、相手の攻撃を遅らせたり単調化させることです。その上で、ブロックで勝負、或いはブロックにあてて柔らかくしたこぼれ球を拾い、こちらの攻撃で点をとるということが必要となります。

要するに、相手の攻撃を単純化し、反撃するということなのですが、バレーでこれ以上難しいことはありません。なぜなら、このために必要となるのは、正確かつ上手なサーブ、そして粘り強いレシーブですが、決勝戦と言う舞台で、それらをきっちりこなすのは、並みの精神力・体力ではできることではないかからです。相手が自分たちより大きいチームだと、精神的に相当プレッシャーをかけられますし、スピードやテクニック、コンビで勝負するのは、言うまでもなく相手以上に体力と精神力を消耗します。

そういった環境の中、春高四連覇というプレッシャー、勝って当然という名門のプレッシャー、自分たちより大きい相手と試合するプレッシャー、そういったもの全てを撥ねのけ、地道なプレーを積み重ねて、強い相手を下した、これは本当に素晴らしいことだと思います。



さて、当日ですが、勉強会後、必死こいてチャリをこいでなんとか間に合いました。会場は東京体育館。この日は大学ラグビーの決勝が隣でやってて、人の波を掻き分けて行くのもなかなか大変でした。

決勝の東九州龍谷(元扇谷)略して東龍は去年まで絶対女王として君臨しており、春高三連覇(史上初)を果たしていました。なお、三連覇の前々年も東龍は春高を制しており、春高女子=東龍というのが最近のイメージです。バレーの名門であり、出身者としては、江藤直美河合由貴松浦寛子等がいます。

一方古川学園(元古川商業)は、高さを武器に今年はインターハイ、国体を制し、二冠。この春高を制して三冠を狙います。ちなみに春高は今年も含め、四年連続で同じ組み合わせ、つまり、古川は三年連続で東龍に春高決勝で敗れているということです。古川は東龍と同じくバレーの名門であり、出身者としては、板橋恵菅山かおる西堀健実等がいます。

今年は古川がとにかくでかく、平均身長は全日本代表を超えており、180cmを超える双子の大野(ライト・センター)、177cmでパワーアタッカーのキャプテン佐々木といった選手がそろい、ふつうにやったら東龍にはまず勝ち目がないだろうと思っていました。また、前日すぽるとで見た大野果歩のアタックが尋常ではなかったので、パワーも技術もある彼女をふつうにやったら止められないだろうとも思っていました。

一方の東龍、エース村田は169cm、鍋谷は177cm。センターの甲斐が178cmですが、ぱっと見る限りでは、古川との体格差をかなり感じました*2

着いたのは試合前練習の終わりころ。アリーナ席二千円、それ以外千円で若干心動かされつつもびんぼー学生は三秒で千円のほうに決める。そして、席に座らず、ネットをなるべく正面に見ることができる場所を確保します。結局、試合が終わるまでの二時間ほど、ずっと立ちっぱなしでしたが、やはりバレーはネット正面(ブロックと同じ方向)で見るのが一番です。横から見たのではコンビがよくわからないんですね。

さて、試合が始まります(以下、自分の記憶に基づく上、バレーの試合を見るのも久々だったので、記録や分析に間違いが沢山あると思われます)。


一セット目、東龍はやはりプレッシャーが大きいのか、セッターがかなり固く、いいレシーブが返っているのにトスがあまり合わない。一方の古川、いいスパイクをどんどん打ちこむ。東龍も順当に点をとって行くが、最初の固さがあってか、結局、25-22で古川。
この時点では、東龍はふつうにやったらやはり負けるなあ…といった印象。特にセッターが最初合ってなかったので、大丈夫かおいおいといった感じ。

ここで一つ面白かったのが、両チームのカラーの違い。東龍が、コートに入る際全員で手をつないで入り、円陣も全員で組んで、手には日本一と刺繍した手袋をはめるといった実に「暑苦しい」九州らしいチームであるのに対し、古川は、セット間で監督の話を控えは聞かずに身体を動かし、選手はめいめいチタンリング等(これと眉毛を整えるのが高校バレーのお洒落の限界)で着飾るといった垢ぬけたチーム。普段は後者の方が好きなのだが、やはり九州出身でバレーのこととなると前者を応援したくなる。

しかし、二セット目以降、東龍のレシーブとトスが安定し始めたことから、流れが変わり始める。というのも、東龍は鬼のように低くて早い平行トス*3が武器のようなのだが、それを活かすには、いいレシーブが前提となる。しかしそこが安定したので、トスも安定し、攻撃につながる。特に、二年生エースの鍋谷のスパイクがかなり冴えはじめ、二セット目最後決めたライト平行は鬼だった。鬼のように低い平行トスと、それをきっちり決めるアタッカー。だんだん東龍の良さが出始める。レシーブに穴がなく、きっちりディフェンスをする東龍に対し、古川は、大野がサーブで徹底的に狙われ、レシーブがあまりかえらない。そのため攻撃が単調になっていき、相手のブロックやレシーブによって決定率が下がる一方。

また、三セット目以降、東龍のトスはどんどん冴え、センターのクイックとセミを使い分けた攻撃で相手ブロックをまどわせたり*4、最初はあまり決まっていなかった鍋谷のバックアタック*5も決まり始め、試合は一方的な展開になっていく。特に東龍鍋谷は、他のアタッカーの攻撃があまり揮わない間ずっと攻撃を支え続け、一度、ライトから三回連続でアタックをブロックされ*6、それを東龍がレシーブで拾い再度ライトトスというのを繰り返し、四度目で超クロスで決めるという離れ業をやってのける等、大活躍。
一方の古川は、センター攻撃が封じられてしまうが、二年生アタッカーの山田が活躍し、第三セット後半で少し巻き返す。しかし、大事なところでのサーブミスがあったりと、ちぐはぐで攻撃がかみ合わない。所々で大野や佐々木がごついスパイクを決めて観客を沸かせるが、東龍はこれは仕方ない、といった体であきらめ顔で、細かく得点を重ねる。

そして、2−1で迎えた第四セット、セッターがバックトスで鍋谷のセンターからのバックアタックを決めると言った離れ業を決めたり、マークがはずれてから決まるようになった村田が活躍するなどして、コンビバレーで着々と点を重ね、結局最後は25-14の圧勝。ついに東龍が歓喜の瞬間を迎えた。


以上が試合の流れです。
結局、サーブで徹底的にレシーブのまずい大野をねらい、相手を崩して攻撃を絞り、ブロックとレシーブのディフェンス勝負でこぼれた球を、崩されながらもセッターに返し、それをセッターが信じられないくらい速いトスで振分け、最後はアタッカーがそれをきっちり決めるという「単純作業」を、徹底的に続けた東龍の粘り勝ちだったと言えると思います。最大の功労者は、正確無比かつ果敢なトスを上げたセッターの比金と、厳しくマークされていた村田に代わり、他のアタッカーが安定するまで粘り続けた鍋谷でしょう。一方の古川は、相手に粘り負けしたのに加え、最後はまどわされて相手の攻撃について行けてなかったように思います。結果は東龍の圧勝といってもいい内容でしたが、それは、ちょっと気を抜くと失敗するようなプレイの積み重ねによってもたらされたものでした。そのようなプレイを続けるには、何万回という反復練習が必要となるわけで、それを本当に死ぬほどやってきたであろうと思われる東龍、本当に素晴らしいチームだと思います。見ていてとても楽しい、気持いいバレーでした。

個人的にいいプレイヤーだなと思ったのは、東龍は比金、鍋谷、古川は佐々木、山田ですかね。比金は最初は固かったものの、東龍の生命線である速いトスを正確に、そして、相手の意表を突く組み合わせであげていて、優勝の功績の多くは彼女にあると思います。次に、鍋谷のプレイにはたびたび思わず声を出して唸ってしまいました。これでまだ二年生と言うのですから、この先が楽しみです。古川の佐々木は、キャプテンをやっているだけあって、強いハートを持っている選手であるように見受けられましたし、体格に恵まれている選手ですから、プロに行けば活躍間違いなしでしょう。最後に山田は、身体は細いのですが、キレのある巧いアタックで将来性を感じました。




最後、余計なことを言っておくと、フジテレビには本当にがっかりしました。生で見ていて思ったのは、彼らはおそらく、高校バレーをスポーツというより、ただのエンタメとしか見てないということです。東龍の優勝で感動してたのも、無駄にハイテンションなふりをしているインタビュアーのインタビューで台無しになりましたし、輪になって喜んでいる東龍の選手や監督に割り込み、インタビューを求めるのには違和感を感じました。

彼らは結局、自分たちが欲しい絵を、自分たちのペースでとるだけなんだろうと。選手達は主役には違いないけれど、祭り上げられた主役であるように思えてしまいました。もちろん、テレビ局側には放映や体育館の利用時間の都合などもあるのでしょうが、やはり自分たちの都合を最優先しているのが伝わってきてたんですよね。これがプロなら割り切りやすいのですが、高校生のアマだからひっかかるのかもしれません。そして、高校生は空気を読んでインタビュアーの欲しい答えを言うわけで、何と言うか、ほんとただの儀式じゃないかと思いました。


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*1:アタッカーの攻撃を複雑に組み合わせることで、相手のブロックやレシーブを惑わせる

*2:ちなみに、身長はチームの自己申告なので、サバを読んだりすることもある

*3:ネットの白線と平行なくらい低くて速いトスのことをいう

*4:今までセンターセミをコンビなしで使う場面があるのだろうかと思っていたが、セッターが上手いと、クイックもあるかもと相手が思うので、一人時間差状態になると言うことを初めて知った…orz

*5:あとで調べたところでは、これが今大会の新兵器だったらしい。全日本代表を真似たものだとか

*6:もちろん、わざとブロックにあてたものもある