事実の探求について

弁護士1年目の際に、沢山の指導をしてくれた先輩弁護士から言われたのが「弁護士は自分の目以外信じるな」ということでした。

 

さて、今世間を騒がせている以下のニュース。

【全文】小室圭さん金銭問題の説明文書公表 | 皇室 | NHKニュース

私は、時間を見つけてすべて全文を読みました。読んですぐに、先輩弁護士の言葉を思い出したのです。そこで受けた印象は、およそ世間で言われている評価とは異なるものでした。

世間では、弁護士やジャーナリスト等の多くの人たちがこの件についてコメントをしています。しかし、そのかなりの部分について、本当にこの文書を読んだうえでコメントをしているのだろうかという感想を持ちました。

たとえば、作成者は感謝の気持ちを持っていないというような指摘ですが、文書中には以下の表現があります。

元婚約者の方が母との婚約を破棄するまでの間支援してくださったことへの感謝の気持ちは当時も元婚約者の方に繰り返しお伝えしていましたが、今も大変ありがたく思っています。 

また、それなりに紛争を取り扱っている弁護士からすると、この文書を読めば、作成者の意図や、世間であまり取り上げられていない事実に気づけるはずです。そもそも、紛争案件において、わざわざこのような事実を詳らかにする文書を開示することはまずありません。このような文書を開示すると、後で揚げ足を取られたり、細かい検証をされるからです。また、世間に事実を開示することで、紛争の相手方との玉虫色の解決(落としどころ)を探れなくなるからです。その意味で、弁護士がついていながら、一般的に悪手としか思えないこのような方策を取ったのはなぜなのか、弁護士ならある程度その理由を想像できるでしょう。ただ、その理由について具体的に言及しても、その弁護士自身は全く得をしない。そのため、世の中でコメントしている弁護士で、その理由について言及していない方々は、文書をちゃんと読んでいないか、何らかの動機であえて言及していないかでしょう。

加えて、現在弁護士を目指している方々には、是非この文書を読んでいただきたいと思います。この文書を読むことで、世の中の紛争というのはどういう経緯で生じるのかや、色んな意図が織り交ぜられた文書を経験して頂けるであろうと思います。

弁護士にとって、一番大切なのは事実を探求する能力と姿勢です。もちろん、事実を探求した結果、それが依頼者にとって不利な法的評価に至る可能性もありますが、事実を見誤ってするアドバイスは意味がありません。その意味で、改めて一年目で得た金言を思い出した出来事でした。