法科大学院制度設計について
前の記事*1にて、自分が法科大学院の定員はどれくらいが望ましいと考えているのかというコメントをいただきましたので、その点含めて法科大学院制度について現状自分が理想と考えていることを書きます。
まず、私の理想とする制度設計は、「１．法科大学院入試の段階で競争を激しくし、２．司法試験の累積合格率は高く*2する。その代わり、３．法科大学院の教育の質を高める」というものです。それができないなら旧司法試験のままでいいと思います。
まず、１．について、現状と逆の、法科大学院入試の段階で競争を激しくする一方で、司法試験の競争を緩めるべしとするのは、競争がないと法曹全体の質が下がってしまうので、それを維持しつつも、法科大学院卒業後つぶしがきかなくなって人材が無駄になるのを防ぐためです。
次に、２．累積合格率について。自分は、法曹志望者が減っている理由は、合格率のリスク、就職難だと考えており*3、合格率を高くすべしとするのはそれらの理由の一つに対処するという趣旨です。そして、合格率のリスクと就職難という理由に関連するのが、法科大学院の定員≒司法試験受験者数及び合格率をどうすべきかという問題です。つまり、受験者数の数によって合格率は上下し、合格者数によって就職の難易も決まります。
現状、その卒業生の多くが司法試験を受験して法曹になろうとする法科大学院の制度を設計するにあたってもっとも基本となるのは、司法試験合格者数≒社会における法曹の需要数の設定でしょう*4。たとえばその数が１５００だとしたら、あとは累積合格率*5を何割とするかから逆算して、法科大学院全体の定員を計算することになります。もちろん、全ての法科大学院が定員を満たすことは考えにくいですし、ある程度法科大学院間で競争させないといけないとは思いますので、純粋に上の計算で出た数をそのまま利用すれば済むということはないでしょうが。
最後に、３．教育の質を高めるという点ですが、まず何が法科大学院でなすべき教育なのかという点でどうやら議論があるようなので、その点をはっきりさせる必要があるでしょうが、自分が理解している求められている教育*6をなすためには、たとえば自分が卒業したロースクールなどは人数が多すぎ、１クラス１５人、譲歩して２０人でないと無理だろうというのが率直なところです*7。そうすると、合格者を多数出すうちの法科大学院などは、定員を６割カットしなければならなくなる一方、地方の従来合格者数が少なかった法科大学院はインフラが整う限り定員を増やすことも可能になるのですが、それが無理だというなら*8、理念を変えるしかないでしょう。
とはいえ、どうせドラスティックな変更なんてできはしないでしょうから、現状維持ということになるでしょう。そうするとどうなるかというと、法科大学院入学者数の事実上の減少（22年度は入学者数4122人／定員4909人*9）により、合格者数を維持すれば、合格率はそれなりに持ち直すかと思われますが、法科大学院の教育を受けても純粋未習者が既習者に追い付くのは難しいのは周知の事実なので他の分野からの入学者は減り、適性試験の受験者数の減少からも明かな通り、法曹になろうとする者の減少により法曹の質は下がり、経済的に苦しくなった下位ローと言われる法科大学院が撤退し、結局旧司法試験の頃と同様、上位ローと言われる大学からばかり司法試験に合格するということになるでしょう。要するに、この改革で何がもたらされたかというと、法曹人口の増加による就職難（≒人材の無駄遣い）と、法曹志望者現象による質の低下ということです。確かに合格率だけ見れば、このままほったらかしにしておけば上がるでしょうが、それは志望者を減らした上でのことですから、全然意味がありません。
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*1:http://d.hatena.ne.jp/he_knows_my_name/20110805/1312492539#c
*2:少なくとも７割くらいは必要かと思います
*3:経済的負担については、負担が大きいことは否定しませんが、就職難が解決されるのであれば必ずしも過重とまでは思いませんし、旧司法試験時代のように合格率が低いと、それはそれで合格するまでかなり費用がかかると思いますので、理由としてはあまり強くないと思っています
*4:同制度の最大の失敗は、この点についての設定のまずさだったと思われます
*5:この点、誤解が一部にあるようですが、議論において「合格率」といったときに、累積合格率についてなのか、一度の試験についてなのかをはっきりさせるべきでしょう
*6:自分で考える力を鍛える＋基礎的な法律科目＋要件事実＋起案の基礎
*7:この点については以前書いた記事をご参照ください：http://d.hatena.ne.jp/he_knows_my_name/20100624/1277370751
*8:無理だと思います。従来旧司法試験に多数合格者を出していた大学が定員削減をして、従来合格者の少なかった大学に合格者の「枠」を譲り渡すとは思えません
